相良が営業所に戻ってきたのは、それからおおよそ二十分後のことだった。彼は僕も見つけるなり「すみませんすみません」と何故か謝ってくる。僕がポカンとしていると「おれのせいで帰りが遅くなって」と続けた。別に彼を待っていたわけではないけれど「大丈夫だよ」と言っておいた。
「夜配が終わらなくて。いつもの倍くらいあったんです」
 個人宅に荷物を配達するドライバーは、夜が本番といっても過言ではない。特に平日の昼間などは、留守にしている家が多いものだから、当然その皺寄せは夜にまわってくる。そして、当日に持ち出した荷物を、どれだけその日のうちに捌けるかで、次の日の仕事量も変わってくる。荷物を頼んだのだから、出来れば早いうちに受け取ってほしいというのが僕達ドライバーの本音だ。
「仕方ないよ。言ってくれれば手伝ったのに」
「そんなの、申し訳ないっす」
 相良はそう言って、視線を床に落とした。「自分に任された仕事ぐらい、自分でなんとかしないと……」
「でも」
 あまり無理はするなよと続けようとした僕の背後から、神田川が相良を呼ぶのが聞こえたせいで、それは言葉にできなかった。相良は僕の背後に視線を彷徨わせると、ほんの一瞬、ごくりと唾を飲み込むような仕草をして、「じゃあ、ありがとうございました」と、僕のもとから立ち去っていった。
 時計を見ると、とんでもない時間になっていたので、僕も慌てて帰路に着くことにした。