異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

 ふわりと優しく笑う笑顔を思い出すたびに、素朴で可憐な白い花が脳裏に浮かぶ。施設長は何も聞かずにただハーブティーを飲んでいた。私もその日はハーブティーを飲んで部屋に戻った。
 そんなことが数度続いたあと、私はやっと施設長に学校が辛いことを話し、両親に会いたいと泣いた。人前で泣いたのは両親を亡くして以来。いつも忙しそうにして、私を邪険にする祖父母の前ではとてもじゃないけど泣けず。
 叔父の家ではひたすら肩身の狭い思いをし、親戚の家では自分を守るのに精一杯だった。
「どうしてこんな目に合わなきゃいけないの?」
「ミオ、酷い目に合わなきゃいけない理由なんてどこにもない。あなたは何も悪くない」
 ひくひくと泣きじゃくる私の肩を抱く優しい手。
 部屋を満たすカモミールの香り。
「これから先、どうしたらいいか分からない。どうやって生きたらいいか誰も教えてくれない」
「分からなければ立ち止まって考えればいい。でも、今何か考えるには貴方は傷つきすぎている。じっくり待ちなさい。ただ、これだけは覚えておいて。自分の存在に意味を見つけれるのは自分しかいない。他人じゃなく、自分で見つけるからこそそれは揺るがないのよ」
 これでも飲んで落ち着きなさい、と手渡されたカップを両手で包み、その温もりを身体に取り込む。数年ぶりに見つけた安心できる場所。
 両親を亡くしてから初めて私が手に入れた優しい場所は、ハーブティーの香りと温もりに満ちていた。

 その後は、施設長の計らいで、隣の地区の中学校に通い、無事高校を卒業した。私がハーブティー専門店を開きたいと思ったのは当然のことだった。
 あの時のように、私が救われたように。
 誰かを救うことができるなら。
 それが私の存在する意味になる気がして。
 私はぎゅっと拳を握り、ジークをもう一度見上げた。
「サザリン様の火傷を治す薬を作りたいから、私をあの森に連れて行って」
 「神の気まぐれ」が何なのか分からない。
 でも、歴代の「神の気まぐれ」がこの世界に奇跡を残したということは、召喚には意味があったということだ。
 それなら、私がここに来たことも何か理由があるはず。
――ううん、違う。理由を見つけるのは自分、私自身だ。
 やってやろうじゃない。
 私が「神の気まぐれ」なら、きっと治せる。

8.カレンデュラ