異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

 両親が死んですぐに私が預けられたのは、島で漁師をしている祖父母の家。小学校卒業までの僅かな期間を過ごした私は、その島に中学校がないこと、祖父の認知症が進み私を育てるのが難しくなったこと、もともと祖父母と父が不仲だったこと。そんないろいろな理由から、本州で暮らす叔父の元に預けられそこから中学校に通った。
 でも、叔父には三人の子供がいて、小さな市営マンションでの暮らしはすぐに限界がきた。
 私が両親と暮らしていたマンションは賃貸で、幾許かのお金は残してくれていたけれど、その金額は叔父にとって私を養うのに不十分なものだったらしい。
 そのあとは遠縁と言われる親戚の家に移ったけれど、そこのおじさんが時折黙って私の部屋に入っていることに気がついた。ある日、入浴中に扉を強引に開けられそうになり、私は教師にそれを伝えた。
 先生は親切な人だった。訴えたその日からもう、その家には帰っていない。親のいない子供が沢山いる施設で私は暮らし始めた。
 また転校、そして施設暮らしの私に対してクラスメイトの視線は優しいものではなかった。中には親切にしてくれる人もいたけれど、同情することで優越感を感じるような笑みにゾッとした。
 多分、本当に親切な人もいたと思う。でも、凝り固まった私の心は全てを悪い方へと受け取り、人を拒絶した。疲れていたんだ、十四歳にして人生に。
 塞ぎ込み学校をずる休みするようになった私は、ある日施設長に呼び出された。
 六十代手前に見えたけれど、今思うともう少し若かったのかも知れない。怒られると身構えていた私に施設長は何も言わず温かなお茶を入れてくれた。
 初めて見るお茶。
 番茶でも麦茶でも、まして紅茶でもない。
 なんだろう、と思いながら飲んだそれはほんのりと良い香りがして柔らかな甘みがあった。
「これは何ですか?」
「ハーブティーよ。いろいろ種類はあるけれど、今飲んでいるのはカモミールティー」
「聞いたことがあります。ピーターラビットに出てきました」
 幼い頃、母親に読んでもらった童話を思い出す。真っ白な花弁の小さな花で近くの公園の花壇にも植えられていた。
「気持ちを落ち着かせる効果があるらしいわ。どこまで効くかは分からないけれど、気に入ったならいつでもこの部屋に遊びにきてね」