木々の揺れが全て魔物のように感じる森は、すぐに勇者の姿を飲み込んだ。それと同時に道の方から数馬の蹄の音が近づいてくる。領主の護衛騎士の服にジークの顔に安堵と緊張が走った。
サザリンの顔には酷いやけど。
命は守ったけれど、若い女性には辛すぎるあとだ。
ハーブの庭を馬で突っ切りやってきた護衛騎士達は、馬を降り地面に寝かされたままのサザリンに駆け寄ると、その痛々しさに顔を歪めた。
「俺がいながら申し訳ありません」
「其方は国境の騎士、見習いか?」
「いえ。今年正式に騎士になりました。お二人とも命は無事ですが守り切れなかったのは俺の力不足です」
ジークの父親ほどの年齢の護衛騎士は小さく首を振るだけで何も言わなかった。
その代わり、焼け焦げた草むらに投げ捨てられたように散らばる肉片を見て目を大きく見張る。
「あれは、ドラゴン? まさかと思うが……」
「俺ではありません。リーガドイズ様が倒してくださいました」
「何!? リーガドイズ様が現れたのか?」
「はい、あっという間にドラゴンを倒し、今は森に潜む魔獣退治に向かってくださっています」
「ドラゴンを前にし命があるだけでも奇跡だ。しかし、この火傷では……すぐに手当が必要だ。我らはこのまま町へ戻る。加勢できぬが理解してくれ」
護衛騎士はサザリンを抱え馬に乗り、もう一人の若い護衛騎士はベニーと一緒に馬に乗った。
「じきに別の衛兵がこちらに応援にくる」そう言い残し護衛騎士は蹄の音とともに立ち去っていった。
「ミオ、俺達は店に戻ろう」
「……私が森に誘わなければこんなことにならなかったのに」
すでに豆粒ほどになった馬を見ながらミオが苦しそうに言葉を落とした。
「ミオのせいじゃない」
「私のせいよ。見たでしょう、あの火傷。あんなの私の世界でも跡が残ってしまう」
ついさっきまで笑いながらラズベリーを摘んでいたはずなのに、どうしてとひたすら後悔が押し寄せてくる。
(この世界にあの火傷を治す薬はあるのかな)
そう思ったミオの頭に、オレンジ色の花が浮かんだ。
(いや、でもあの火傷を治癒できるほどの効果があるとは……)
いつの間にか握りしめていた自分の手を見る。
願えば金色に輝き答えてくれるハーブ。
それなら、もしかしたら。
(できるかも知れない)
7.ミオの過去
私はごくごく普通の家に生まれた。
サザリンの顔には酷いやけど。
命は守ったけれど、若い女性には辛すぎるあとだ。
ハーブの庭を馬で突っ切りやってきた護衛騎士達は、馬を降り地面に寝かされたままのサザリンに駆け寄ると、その痛々しさに顔を歪めた。
「俺がいながら申し訳ありません」
「其方は国境の騎士、見習いか?」
「いえ。今年正式に騎士になりました。お二人とも命は無事ですが守り切れなかったのは俺の力不足です」
ジークの父親ほどの年齢の護衛騎士は小さく首を振るだけで何も言わなかった。
その代わり、焼け焦げた草むらに投げ捨てられたように散らばる肉片を見て目を大きく見張る。
「あれは、ドラゴン? まさかと思うが……」
「俺ではありません。リーガドイズ様が倒してくださいました」
「何!? リーガドイズ様が現れたのか?」
「はい、あっという間にドラゴンを倒し、今は森に潜む魔獣退治に向かってくださっています」
「ドラゴンを前にし命があるだけでも奇跡だ。しかし、この火傷では……すぐに手当が必要だ。我らはこのまま町へ戻る。加勢できぬが理解してくれ」
護衛騎士はサザリンを抱え馬に乗り、もう一人の若い護衛騎士はベニーと一緒に馬に乗った。
「じきに別の衛兵がこちらに応援にくる」そう言い残し護衛騎士は蹄の音とともに立ち去っていった。
「ミオ、俺達は店に戻ろう」
「……私が森に誘わなければこんなことにならなかったのに」
すでに豆粒ほどになった馬を見ながらミオが苦しそうに言葉を落とした。
「ミオのせいじゃない」
「私のせいよ。見たでしょう、あの火傷。あんなの私の世界でも跡が残ってしまう」
ついさっきまで笑いながらラズベリーを摘んでいたはずなのに、どうしてとひたすら後悔が押し寄せてくる。
(この世界にあの火傷を治す薬はあるのかな)
そう思ったミオの頭に、オレンジ色の花が浮かんだ。
(いや、でもあの火傷を治癒できるほどの効果があるとは……)
いつの間にか握りしめていた自分の手を見る。
願えば金色に輝き答えてくれるハーブ。
それなら、もしかしたら。
(できるかも知れない)
7.ミオの過去
私はごくごく普通の家に生まれた。



