異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

 剣が炎を切っ先、風が青い触手を弾き飛ばす。
 光と青炎がぶつかりはじけ飛んだその先。
 足元の草が焼け焦げる中、勇者は泰然と剣を構えその姿を現した。
「嘘だろう。どっちが化け物か分かんね……」
 ジークのぼやきにミオも頷く。到底同じ人間とは思えぬ能力。
 勇者が地面を蹴る。
 それは瞬きよりも早く、ミオは何が起こったのか分からない。
 ジークでさえすべてを目で追うのは無理だった。
 真っ直ぐドラゴンに向かった勇者はそのまま剣を横にし真一文字にドラゴンの腹を切り裂く。
 翼が切り落とされた右側脇腹を駆け抜けて、背後に回り今度は袈裟懸けに剣を振り落とし、高く跳躍すると太い背骨ごとその首を切り落とした。
 ドサッ、バタッと地面に落ちたそれはもはやドラゴンではない。真っ赤な肉片から流れる血が地面に大きな水溜まりを作った。
 その中をブン、と剣を振り、血を振り落としながら勇者がミオ達に向かって歩いてくる。パシャ、と血を踏む音に跳ね返る赤い飛沫。それらを全く気にしない歩みは、血塗られた地面が彼の日常だと感じさせた。

 国境の方角から空気を裂かんばかりの断末魔が聞こえた。どうやらもう一匹のドラゴンも騎士達の手により退治されたようだ。
「サザリン様、大丈夫ですか?」
「う、うぅ……」
 ミオの問いかけに苦しそうにうめくサザリンをジークは地面に置く。
 赤く腫れ爛れた頬は風が触れるだけでも痛むようで、うっと顔を顰めてはその動きがさらに痛みを増し、翠色の瞳から涙が溢れる。
 サザリンの顔に大きな影が落ち、見上げれば勇者がそこに立っていた。勇者はジークの肩に手を置く。その左腕も手首から肘にかけて赤く焼けただれていた、勇者と言えどもドラゴン一匹を無傷で倒すのは無理だったようだ。
「この辺り一体は俺に任せろ。ミオ(・・)達を頼む。間も無く町の衛兵も来るだろう」
「はい、分かりました」
 ジークの返事に軽く頷くと、勇者は踵を返し疾風がごとく森に向かって走り出した。
 ドラゴンから逃げてきた魔物がどれほどいるか分からない。ただ、ドラゴンが死んだ今、そいつらにとっては人を、町を襲う又とない好機だ。危険は去ったわけではない。