ミオは今更ながらその可能性に気づいて、慌ててガスや電気をつけようとするも、勿論反応はない。開けた冷蔵庫は微かにまだ冷たかったけれど、あと数時間で生ぬるくなりそうだし、氷はすべて溶けていた。
 (水道だけじゃなく、水や電気、ガス、ネット環境。全てのライフラインが遮断されている)
 愕然と立ち尽くしたのち慌ててスマートフォンを取り出すと、電源は入るもネットにつながるはずがない。これは痛い。
 がくりと膝を着くと、リズがカウンターからこちらへとやってきて水道の蛇口に手をかけ「あぁ、そういうことね」と頷く。
「ごめんごめん。私ったら気がつかなくて」
「あの、こっちの人達はどうやって生活しているんですか? やっぱり井戸とか、竈?」
 井戸水はなんとか汲めても、火なんて起こせる自信がない。
(電気は……ランプ? それでも火は必要よね)
 これはまずい、と顔を青くすると、リズはあっけらかんと「大丈夫」という。
「それなら魔石を使った水道とコンロ、それからランプがあるわ。どれも五十年前、ミオの前の『神の気まぐれ』が作ったものよ」
「魔石ってことは、この世界に魔法があるのですか?」
「そうよ。そうね、とりあえずバゲットとサラダを用意して食べながらいろいろ教えてあげる。勝手に使わせてもらうわよ」
 リズはミオに変わってキッチンに立ち、バゲットをパン切包丁で切ると、戸棚を開けて皿を取り出しサラダを盛りカウンターに並べた。
「さっさっ、座って。混乱しているのは分かるけれど、こういう時だからこそちゃんと食べないと」
「はい、ありがとうございます」
 ミオは冷蔵庫からバターを取り出しそれを持ってカウンター席に座った。バターは少し溶けかけているけれど、却ってパンに塗りやすかった。
「まず、この国はセルジアっていうの。島国よ。それから魔法だけれど、誰でも魔力は持っているけれど、それを具現化して扱える人間は少ないわ。具体的に言えば炎や水を出したり、怪我を治すことね。それで、さっきの魔石の話になるのだけれど、これの本来の使い方は魔力を高めたり防御力をつけることだったの。でも、五十年前にやってきた『神の気まぐれ』が、魔石を加工して日常用品に埋め込むことで、少しの魔力を流すだけで水や火が出る道具を作ったの。魔道具って呼ばれているわ」
「神のきまぐれ、ですか」