「おはようございます。今行きます!」
 リズはちょっと左右を見た後、頭上を見上げ手を振った。ミオは手を振り返すと慌ててパジャマを脱ぎクローゼットを開ける。春夏秋冬、季節ごとに服が並ぶけど、どれを着るべきかと暫し逡巡。
(とりあえずTシャツとGパン、それからカーディガンを羽織っておこう)
 肌で感じる気温は暑くも寒くもない。今の季節はなにだろう、そもそも季節があるのかな、と考えながら眉だけさっと書く。
 タッタッタッ、と階段を降り店内を通り抜け扉を開けると、リズが笑顔で立っていた。手には大きなバスケット。会うのは二度目なのに、人懐っこい笑顔に肩の力が少しだけ抜けるよう感じる。
「朝食持って来たわよ」
「ありがとうございます」
 リズがバスケットを「はい」と手渡してくるので受け取ると、焼きたてのパンの香り。こんな異常事態にもかかわらずミオのお腹はぐう、と元気になった。思わず頬が赤くなる。
(でも、私の生命線がこの逞しすぎるお姉さんであることは間違いない!)
 羞恥心に耐えながら、それだけは強く確信した。
 会ったばかりの人に頼るのは申し訳なしけれど、そんなこと言っていたら生きていけないのだ。
 リズは生成りのざっくりしたワンピースに、ウエストを茶色の皮っぽいベルトでぎゅと締めている。足元はベルトと同じ色のブーツで髪はふわりと降ろしていた。少しお酒臭く目の下にクマがあるのは、この時間いつもなら寝ているからだ。
「あの、宜しければカウンターに」
「ありがとう。じゃ、遠慮なく」
 カウンターの真ん中の席をすすめると、ミオはバスケットを持ったままキッチンへと向かう。蔦で編み上げ作られた蓋を開けると、バゲットと野菜、それから卵が数個入っていた。
(うん? 生卵? ゆで卵?)
 どっちだろうと見るミオを見て、リズが生卵だと教えてくれる。
「バゲットに卵を挟もうと思って取ってきたの」
「取って……?」
「私ん家、鶏を飼っているから産みたてよ。ゆで卵でも炒り卵でもどちらでもいいわよ」
 にこりと微笑まれ、それならゆで卵をを作ろうと鍋を取り出す。卵はスーパーで見るより一回りほど大きく色は茶色だ。
 鍋に水を入れようとしたところでミオが首を傾げた。
(あれ? 水がでない)
 それもそのはず、ここは異世界。