「えーと、パジャマ、パジャマ」
 ベッドの上にまで積み重なっている本や鞄をぽいぽい投げると、枕の下から出てきた。なんで?
 しかし、それもいつものことと、気にせず手に取り着ようとした。
 その時だ。いきなり部屋がぐらりと揺れた。始めは下から突き上げるように、そのあとは大きな横揺れ。
(地震? こんな時に? あっお店のティカップが割れちゃう!!)
 慌てて立ち上がり階下に向かおうとしたその瞬間、電気がプツリと消えた。そして唐突に感じる墜落するかのような浮遊感。フリーフォールに似たような、足元にぽっかり穴が空いてそこに落ちていく感覚が全身を包む。
「ひっ、きゃーー!!!!」
 美桜の悲鳴だけが、暗闇に木霊した。

  * 

(痛い……)
 しこたま背中を床に打ち付けた美桜は、のそりと身体を起こす。真っ暗な室内に窓から月明かりが差し込み、床に窓の形分の明るさが浮かぶ。
(夜?)
 さっきまで夕方だったはずなのに、と部屋を見回すも月明かりでは良く見えず。
 あれだけの地震だったのだから誰か騒いでいそうなのに、耳を澄ませど何も聞こえてこない。
(外に出た方がいいのかな)
 地震なら、また揺れるかも知れない。店の状況も気になるし、美桜はひとまず階段を降りることにした。階段を踏み外さないように慎重に降り、扉を開けるとまずカップとハーブが入った瓶を確認する。
 幸い、どちらも無事でほっと胸を撫でおろすと、外はどうだろうかと入り口の扉を開けた。
カラリと小さな音が闇に良く響く。
 恐る恐る外に出た美桜は、そのまま目を見開いて立ちすくんだ。
 広がる瓦礫の山の方がずっとリアリティがあっただろう。
 なぜなら、目の前に広がるのは大きな一本道とその向こうに等間隔で並ぶ木々。高い建物どころか平屋の民家すらない。ただただ、空にぽっかり黄色の月が浮かんでいる。
(もしかして私、頭を打った? これ、夢よね)
 それともここがあの世だというのか。
 どう考えても、コンクリートの細路地ではない。
 濃い緑の香り、足元は土、目の前にある広い道だって舗装されていない。のっそりと伸びるその道の先。左手側を見れば林の中に消えていってどこに繋がっているのか見当もつかないし、右手側は真っ暗だ。