町からここまで民家はなく真っ暗だった気がする。物騒じゃないかな、と思ったところで、リズの鍛えられた二の腕が目に入り、大丈夫だと思い直した。
「それじや、約束通り初めてのお客様になってね。えーと、何がいいかな。飲みやすいものならカモミールとか、ローズヒップティー。それから、苦味があっても良ければ二日酔いにきくハーブティーがあるわ。お酒を飲む前に飲むと二日酔い防止にもなる」
「じゃ、それを。実は今朝も頭がぐわんぐわんしてたのよ」
 リズが頭を押さえ顔を顰める。
(確かにお酒臭かったし、顔色も悪かった)
 面と向かって言わないまでも、ミオもそう思っていた。だから、本来なら初心者向きではないハーブティを、あえて口にしたのだ。
「かしこまりました。ちょっと癖があって苦いけれど大丈夫?」
「ええ、平気よ」
「それじゃ、この席に座って待ってて」
 リズに真ん中のカウンター席を進めると、ミオは棚からハーブが入った瓶をいくつか取り出した。
 ハーブは単体でも飲めるけれど、ブレンドすることで味に幅や深みが出る。もともとブレンドしたものも何種類かあるけれど、二日酔い用は味が独特で正直需要が少ないから今から作っていく。
 まずお湯を沸かす。
 その間にさっき出したハーブをスプーンで掬い小さな器に入れていく。数種類入れ軽く混ぜるミオを、リズは腰を浮かしカウンターから乗り出し気味に眺めた。
「ねえ、それがハーブなの? 私には枯れ草に見えるけど」
 リズは茶がれた葉を見て不安そうに眉を顰める。どう考えてもここから美味しいものができるとは思えない。
 それも仕方ないことだと、ミオは瓶を手に説明をすることに。
「これはタンポポ。春に黄色や白の花を咲かせるの。タンポポには肝臓の機能を強化する働きがあるし、デトックス効果もあるわ」
「肝臓?」
「アルコールを分解する機能を持っている臓器、デトックスは身体の体内に溜まった有害なものを排出させること」
 そこにアーティチョークを少し加える。アーティチョークは大きな花を咲かせる植物だ。蕾のうちに収穫し食べることもできるけれど、ハーブに使うのは肉厚で大きな葉。強い苦味が胃腸を刺激し、こちらも肝臓の働きを助ける効果がある。
 でも、この二つだけだとちょっと苦味が強すぎて飲みにくいので、ペパーミントも追加で入れている。