「魔石からですよ。水道には水を操るブルーの魔石をはめ込んでいて、そこから魔力に呼び寄せられて出てくる仕組みになっています。魔石の交換時期は大体十年と思っていてください。それより早く出が悪くなったなら修理をします」
 なるほど、とミオは自分の人差し指を見ながら思う。家電だって十年が寿命、その時には家電ごと買い替えなきゃいけないかも知れない。
「でもずっと冷やしておきたい冷蔵庫なんかはどうするんですか?」
「それは、もとから氷の魔石に少しずつ魔力を出すような加工をしておきます。だから、ミオさんは何もしなくてもいいですよ。ただ、魔石の寿命は五年とちょっと短めなんで覚えておいてください」 
 ミオは再び水道に指を当て、水を出しては止める、をやってみる。でも、出すのはともかく上手く止めることができない。
「私、しばらくここで練習しててもいいですか?」
「分かりました。じゃ、俺は先に冷蔵庫をやってしまいますね」
 フーロは水道のすぐ横にあるコンロではなく、冷蔵庫に取り掛かかる。
 ミオは何度も水道に指をかざし、魔力の使い方を練習した。

 夕方、作業を終えたフーロと入れ替わるようにリズがやってきた。朝、会った時とは違い、髪はしっかり巻かれアイメイクもばっちりなので一度自宅へ戻ったようだ。艶々な口紅でミオと呼ぶと真っ赤なワンピースの裾を翻す。
「どう? 水や火は使えそう?」
「うん。魔石を入れてもらった物を全部試したけれど、どれも使えるわ」
 照明の灯りの下でミオは答える。これで生活できそうだ。
「時間はまだある?」
「ええ。ミオの作ってくれるハーブティーを飲みたくていつもより早めに家を出たから。あと三十分後の辻馬車にのるつもりよ」
 ここから町までは歩いて三十分。歩けない距離ではないけれど、目の前の広い道は辻馬車が定期的に走っている。
 左手の林の向こうには小さな村があり、辻馬車は主に村人が仕事で町へ行くのに使うのだとか。だから朝と夕方の混雑する時間帯は三十分おき、それ以外は二時間おきとなっている。ミオの店があるのはちょうど村と町の中間地点で、突然現れた店に辻馬車の中が騒然となっていたのだが、ミオはまだ知らない。
「昨日はどうして歩いていたの?」
「最終の辻馬車にはどうしても間に合わないから、帰りはいつも徒歩よ」