異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

 怒った顔ばかり見ていたミオは、こんなに柔らかく笑う人だったのかと思った。
(どんなハーブが育っているのだろう)
 手元にある二枚の紙を見ているうちに胸がわくわくしてきた。
 あの森だってまだまだ見ていない場所が沢山ある。アーティチョークはあるだろうか、リズの好きなカモミールはきっとが花開いているはず。
 嬉しそうに地図を見るミオにカーサスが声をかけた。
「妻への土産にラズベリーリーフを売ってもらいたい。それから、これと同じ物をもう一杯」
 空になったグラスの氷をカラリと鳴った。

9.エピローグ

 ゆっくりと蛇行しながら流れる川、緑の葉がこんもりとした森、その間をどこまでも平原が伸びている。青々とした草が風に揺れ、黄色、紫、白の花が絵の具を散らしたかのようにあちこちで咲きほこっていた。
 草花の上を撫でるように吹き上がった風が連れてきたのはラベンダーの香り。ミオは体いっぱいに空気を吸い、頬を上気させた。
「……すごい、凄い凄い!!」
 次第に大きくなるミオの歓声にジークが隣で相好を崩す。思わず、といった風に走り出した後ろ姿を、目を細めながらついていく。
 少し離れた場所でリズとドイルがその光景を見ながら目を合わせ口角を上げた。
 四人が今来ているのはかつて「神の気まぐれ」が住んでいた川上の小さな村のはずれ。川の水は澄んでいて、水浴びをするのに良さそうな浅瀬が続いている。
「タイム、ネトル、レモングラス、あっ、アーティチョークもある! あっちにはカモミールも」
「ミオ、そんなに走らなくても誰も取ったりしないよ」
 ジークの声に足を止めるも、顔はうずうずと辺りを眺める。さっそくリュックを下ろして採取をしようとするのを遠くからリズがやんわり止めた。
「先にランチにしない? お腹が空いたし食べた分だけ鞄が空になるわ」
「そうね、分かった。じゃ、あのリンデンの木の下で食べよう!」
 どれがリンデンだ? と三人が首を傾げるなかミオはスキップしながらクリーム色の花が咲く木の下に向かう。近づくにつれ甘い香りが漂ってきた。
 リンデンの大木の下にシートを引いてミオのリュックとリズのバスケットから昼食を出し車座になって座る。
 サンドイッチ、ベーグル、卵とほうれん草のキッシュ、ポテトサラダ、ミニトマトのマリネはミオが、鶏肉もどきの煮込みと唐揚げはジークが作ったものだ。