異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

 少し迷ったあと、棚からペパーミントとカモミールを取りだし、ミントを少し多めにブレンドすることに。カモミールの柔らかい甘みに、ミントのさっぱりした香りが合わさり、こんな暑い日にはピッタリだ。
 入れるハーブの濃度はいつもの二倍。それを普段の手順で作ると氷をたっぷり入れたグラスにゆっくり注ぐ。氷を溶かすように少しずつ注ぐのがミオのこだわりだ。
「今日は暑いので冷たいハーブティーをご用意しました」
 カーサスは淡い色の液体を暫く眺めた後、グラスに口をつけた。一口、二口、ごくごくと喉が鳴る。
「……うまい」
「ありがとうございます」
 ミオが思わず破顔すれば、カーサスはすっと険しい顔になり、頭を下げた。
「すまなかった。この一週間で妹の傷は信じられないほど癒えた。頬と首にまだ赤みは残るが、皮膚の引き攣れもなく医師も驚いている」
「良かったです。わざわざ教えに来て頂きありがとうございます」
「今までの無礼、許してくれとは言わない。ただ、俺が間違っていた、感謝していると伝えに来た」 
「そのお言葉で充分です。どうか頭を上げてください」
 ミオはカウンターから出てベニーの隣に腰掛ける。
 ベニーはもう半分以上果実水を飲んでいた。追加で少しだけ足してあげる。
「今日はこれを持ってきた」
 カーサスはわざわざ立ち上がるとミオに一枚の紙を手渡した。見慣れない文字ばかりが並び、ミオが知っている単語はひとつもない。なんだか難しそうだ。
「あの、これは?」
「サーガスト家で管理しているハーブを自由に使って良いという許可証だ。開放しても良いのだが、民が知らず使って害になってはいけない。だから許可証を持っている人間だけ使用して良いことにした」
「では、騎士団近くの森に自由に入ってもいいのですね!」
「もちろん。それからこれも。これは昔「神の気まぐれ」が住んでいた場所の地図だ。この辺りにもハーブはある。勝手な言い分だが、それらを使って民のためになる物を作ってくれたら嬉しく思う」
 カーサスが懐から出した地図を受け取り見ると、どうやら町の東門を抜け川を上流に遡った場所にあるようだ。縮尺がいまいち分からないけれど、日帰りできる距離らしい。
「ありがとうございます」
「それは俺のセリフだ」
 強面の顔だが笑うと目じりの皺が深くなり優しく見える。