異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

 一週間後の定休日、店の裏で荒らされたハーブ畑の手入れをしていたミオは、ふぅ、と一息額を拭う。魔物の仕業ではない、あったのは馬の蹄と人の足跡。
(知らない人が見たらハーブか雑草か分からないものね)
 足跡の数だけ自分を守ろうとしてくれたのだから、仕方ないと思う。
 幸い生命力逞しいハーブをメインに育てていたから、踏み潰されたハーブを抜き、土壌を整え水を上げれば再びすくすく育ち始めた。
(でも、問題はここに植えていないハーブなのよね)
 そろそろアーティチョークも底が見えてきた。タンポポを増量してしのいではいるけれど、どうにかしないと。
 夏になったせいか土埃が立つようになってきた。ミオはジョウロに残っている水を店先にも撒こうと、表に向かう。すると、ちょうど街の方から馬車が来た。
 ポクポクと牧歌的な音を鳴らし近づくそれは、ミオの前で止まる。見覚えのある馬車に、手に持っていたジョウロを足元に置くと、御者が開けた扉からベニーが飛び出してきた。
「遊びにきたよ!」
「いらっしゃい。暑いわね、ミント水飲みますか?」
「ううん、今日は果実水を持ってきたから一緒に飲もう」
 手にしていた瓶をミオに見せる。オレンジ色の液体が太陽の日差しの下チャポンと揺れた。
 無邪気な笑顔からはドラゴンと対峙した恐怖は消えている。トラウマになっていなさそうなのでホッとした。だってミオは、数日、物音に敏感になって熟睡できなかったのだ。
 ザッと土を踏む音に目線を上げ、ミオは驚き目を大きくする。そこにいたのはカーサス。ベニー一人だと思っていなかったけれど、てっきりマーラかマーガレットが一緒だと思っていた。
「あ、あの」
 どうしてここに、と戸惑っているとベニーが勝手に扉を開け店の中に入ってしまった。ミオは戸惑いつつ「どうぞお入りください」とカーサスを店内に案内する。
「ミオ、早く果実水! 果実水!!」
「はい。グラスを出すから待って。氷も入れますか」
「いっぱい」
 ミオは苦笑いを堪え氷を三つグラスにいれ、果実水を注ぐ。同じものを三つ作ろうとしたところでカーサスがそれを制した。
「ハーブティーを飲んでみたい」
「……はい!」
 思わぬオーダーに声が上ずる。