異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

「魔物が襲来している中、わざわざ国境近くの森に入ったのか? これを作るために」
 独り言のような呟きに、返事をすべきかミオが戸惑う。怒っているのか、無謀な行動に驚いているのか、それとも心配しているのか。
「カーサス様、お腹の子供に作用があるハーブがあるのは事実です。でも、傷を癒すハーブがあるのもまた事実です。毒にも薬にもなる、使い方次第。それはハーブに限ったことではないと思います」
「……そうかもしれないが、今は何とも言えない。だだ。森に入ったことを罰する気はないとだけ言っておく」
「ありがとうございます」
 カーサスは決して悪い人間ではない。彼にとってハーブは毒で、でも、守らなきゃいけない物で。その矛盾に悩みつつ、実直に先祖から引き継いだことを遂行していただけだ。
 カレンデュラが火傷の治療に有効なことは理解したが、ハーブ全ての取り扱いについては即断できないという慎重な性格は、むしろ領主に相応しい一面だろう。
「今は何よりサザリン様を、火傷を負った騎士を治療するのが優先です。でも落ち着いたらハーブについて話す機会を与えていただけませんでしょうか。あっ、今お返事いただかなくても結構です。今日はこれで帰ります」
 ミオはサザリンに「ゆっくり休んで」と声をかけ、マーガレットとベニーに見送られ屋敷を後にした。マーガレットはひたすらミオの腕を心配してくれたけれど、痛みはもう感じず、それが嬉しくも誇らしくもあった。
 
 ジークが手綱を握る馬に一緒に乗り帰ると、店の前の馬止めに人影が。エドよりも一回り大きなそれは左腕に包帯を巻いたリズだ。ミオ達に気づき、ひょいっと手を上げる。
「おかえり。良かった、無事だったのね」
「うん。ジークに領主様のお屋敷に連れて行って貰っていたの」
「ドイルから話は聞いているわ。火傷の薬を作ったって。ジーク、ドイルからの伝言よ。魔物退治は終了したから騎士団に戻れって」
「分かりました」
 退治終了の言葉に足から力が抜けるほどホッとする。リズの手を借り馬を降りたミオは、ジークを見上げ礼を言う。
「ありがとう。エドにも感謝してるって伝えて」
「あぁ、分かった。でも、騎士団に帰るのはちょっと気が重いな」
「あら、どうして?」
「だって今頃みんなで武勇伝語ってるんだぜ。傷とか見せあってさ。俺は一角兎一匹、怪我どころか返り血も浴びてない」