異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

 目立った副作用がないのを確認すると、次は頬と首に塗布する。一番酷い右頬は、爛れた皮膚が少し回復しただけだったけれど、それでも効き目はあった。そもそも一度塗っただけでこの効果は、長年医療に関わる医師でも初めて。
「高級ポーション並ですな。いや、あれはドラゴンの炎の場合、治療しても痕が残るからもしかするとこちらの方が優れているかも知れない」
 医師は、今もなお回復を続ける皮膚を見ながらサザリンに問いかける。
「どうですか? かゆみ、痛み、それから気分が悪いなどありませんか?」
「大丈夫です。腕はもうほとんど痛みません。顔は……さきほどより動きます。あの、私治るんでしょうか?」
 潤んだ瞳で医師を、そしてミオを見る。家族に心配をかけまいと気丈にふるまっていたけれど、顔に火傷を負ったのだ、ずっと不安で心配で泣き叫びたかった。
 この部屋に鏡がないのでサザリンは自分の顔がどうなっているのか知らない。唯一見えていた腕の火傷が一瞬にして薄まったことが彼女に希望を与えた。
「断言できませんが、塗布を続ければ完治するかも知れません」
「本当か!!」
 身を乗り出し医師を問いただしたのはカーサス。医師は「おそらく」と前置きし、
「まずは一日三回塗布し様子を見ましょう。効果や副作用の有無を見ながら回数を増やしていきます」
「分かった、それで頼む」
 どうやらカーサスはカレンデュラ軟膏を使うことを了承したようだ。
 ミオの肩からフッと力が抜ける。
(よかった。あとはお医者様に任せよう)
 やれることはやった。
 ミオは大きく息を吐き、そしてカーサスの名を呼ぶと深く頭を下げる。
「カーサス様、お詫びしなくてはいけないことがあります」
「なんだ、まさか今更、副作用があると言うのか!?」
「いえ、そうではなくて」
 再び語気を強めたカーサスにミオは慌てて首を振った。
「実は、この軟膏を作るために騎士団の近くにある森に入りました。使ったカレンデュラの花は領主様の土地から勝手に採取したものです。申し訳ありません」
 下手すれば窃盗罪。善意からだといってすべてが許されるとも思っていない。
(窃盗罪で牢屋行きは避けたい)
 怒られるだけで済めば幸いと、俯き怒声を浴びる覚悟をしていたけれど、カーサスは一向に何も言ってこない。恐る恐る見上げれば、困惑した緑の瞳と目があった。