異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

 こほこほと咳込み後半は言葉が続かなかったけれど、何を言いたいのかは充分に伝わった。
 カーサスは口籠る。
 ドラゴンの炎でできた火傷を治す薬なんて聞いたことも見たこともない。もしかしたら王都に住んでいるという聖女なら可能かも知れないが、田舎の領主がそう安易に会える相手ではない。しかもここからだと馬で一か月ほどかかる。
「そ、それは……」
「ないのでしたら、私は、ミオさんの薬を使いたい」
 言いあねぐカーサスに対し、サザリンはキッパリと言い放った。
 
 サザリンの言葉が決めてとなった。
 カーサスはそれでもまだ納得できないような、迷うようなそぶりを見せていたけれど、最終的には仮眠を取っていた医師を呼ぶようマーラに伝えた。
 事情を聞いた医師は驚き目を見張ったあと、恐る恐るといったふうにカレンデュラ軟膏が入った瓶を手に取る。蓋を開け匂いを嗅いだ後、ヘラを使って少量掬い、自分の左手首裏の皮膚の薄いところで安全を確かめると、使ってみる価値はあると結論づけた。
「では、包帯を解きます」
 眼鏡をかけた初老の男性医師が慎重に包帯を取っていく。
 包帯の下から現れたのは爛れ引きつった肌。ミオははっと息をつめ、奥歯を噛んだ。想像していたよりずっと酷い、爛れた肌は赤黒くそれが右頬広範囲に広がっている。
 医師の視線がミオの腕へと流れる。すっかり元通りになった腕を見て、僅かではあるも表情に期待が差す。
「サザリン様、今から薬を塗布しますので痛みがあれば仰ってください」
「分かりました」
 話しにくそうにしているのは、口が火傷で引きつってうまく唇が動かないから。
 医師は黄色い粘り気のある液体を手に取ると、まずは腕に塗った。試し塗りらしく、数センチほど塗布し暫く様子を見る……つもりだったのだが、数秒後、火傷はみるみる薄くなりほのかに赤身を帯びる程度まで治癒した。
「こ、これは!」
 完治しなかったのはやはりドラゴンの炎の威力がすさまじいから。しかし、瞬時にここまで回復するのはもはや奇跡と言えるレベルだ。比較的軽症だった腕の治療はあっという間に終わり、真っ赤だった肌が淡いピンク色まで回復した。