異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

「分かりました。全てのハーブを信用して欲しいとは申しません。でも、今お持ちした軟膏はサザリン様に害をなすものではありません」
 ミオの立っている場所からは、ベッドに横たわるサザリンの表情は見えない。巻かれた白い包帯だけが痛々しく目に映る。自分が森に誘わなければ、後悔が止まない。
「カーサス様、ではこれをご覧ください」
 ミオは廊下に出るとランタンを手にした。ジークは小さな炎がガラス瓶の中で揺らめくのを見た瞬間、ミオが何をしようとしているか察し「止めろ」と手を伸ばす。
 しかし、僅かにミオの動きが早かった。ランタンの蓋をあけると、剥き出しになった炎に躊躇なく右腕を近づけた。
 ジリジリと肌が焼け焦げる。皮膚はあっと言う間に赤くなり、焦げ付く臭いが立ち昇った。熱いのか痛いのか、それすらよく分からず、しかし脂汗を浮かべながらもミオはランタンを離さない。
「よせ、何をしてるんだ」
 ジークは強引にランタンを奪い取ると、床に投げ捨てブーツで火を踏み消した。すぐにミオの腕をとれば、柔らかい肌に痛々しい火傷の跡が十センチほど残っている。
「無茶をするな!」
「大丈夫、リズの真似をしただけ」
 はぁ? と顔を引き攣らせたジークを無視し、ミオはリュックを下ろすと、左手だけで紐を解き中から瓶を取り出した。それを半ば強引にジークに押し付けると、呆然と立ち尽くすカーサスに駆け寄る。
「ご覧ください。ドラゴンの炎に比べて軽症なのは仕方ないと思ってください。でも、火傷は火傷です」
 カーサスは緑色の瞳をギョッと見開き、焼け爛れた肌を見る。妙齢の女性が自ら自分の腕を焼くなど、正気の沙汰とは思えない。 
「ジーク、その瓶を貸して」
「言われなくても。俺がするから」
 苦虫を潰したような顔。既に蓋は開けられており、ジークは指先でたっぷりと軟膏を掬い取った。
「手を出して」
 腹立たし気なのは咄嗟に防げなかった自分への苛立ちから。だから、ミオの腕を持つて手は限りなく優しい。そっと、まるで触れれば壊れる繊細なガラス細工を手にする様に慎重だ。
 軟膏が触れるだけで火傷の箇所がひりつくように痛んだ。カレンデュラは刺激は少ないけれど、爛れた肌は風が当たるだけでも痛むのだから当然のこと。