異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

「申し訳ありません。私がサザリンさんを森に誘ったばかりに」
 ミオは深く頭を下げる。その勢いでリュックの中で瓶がぶつかる音がした。
「ベニーから話は聞きました。五歳の子供の話ではありますが、ミオさんを責めるつもりはありません。あなたが無事でよかったわ」
 寝ていないのだろう。真っ赤に腫れた目と、瞳の下のクマが痛々しい。
 ミオはリュックを降ろし黄色い軟膏が入った瓶を取り出した。
「どうか、この軟膏をサザリン様に使うことを許可してください」
「これは……?」
「私がハーブから作りました。火傷の治療薬です」
 ミオから瓶を受け取ったマーガレットは、困ったように眉を下げ、次いで後ろを振り返り寝台で横になるサザリンを見た。夫であるカーサスからハーブを使うなと言われているのだろう、その顔には迷いが現れている。
 しかし次の瞬間、マーガレットの顔色がさっと変わり、怒気を含んだ低音が廊下に響いた。
「おい、これはどういうことだ」
 振り返った先にいたのは、やはり領主カーサス。その背後には執事らしき男と先程の護衛兵士が控えていた。
「カーサス様、ミオさんはサザリンのために薬を……」
「断る。二度とこの屋敷に来るなと言ったはずだ」
 マーガレットを言葉途中で遮り、告げられた拒絶の言葉。向けられた視線に気圧されながら、でも、ミオはカーサスを見上げた。
「カーサス様がハーブを嫌う気持ちは理解致しました。ですが、決してハーブは毒ではありません。実際、私が作った軟膏は騎士団でも使われています」
「それはお前がたぶらかして……」
「いえ、違います」
 言い切ったのはジーク。すっとミオとカーサスの間に割って入った。
「俺は以前、川で溺れ足を負傷した際、ミオのハーブで命を救われました。あのままなにも手当てされなければ、出血多量で死んでいたはず。ミオのお蔭で尋常では考えられぬ速さで傷が塞がり、血が止まりました。あれは紛れもなく『神の気まぐれ』の力です」
「……しかし、過去にあの草が害をなしたのも事実。それを大切な妹に使うわけにはいかない」
 騎士服を纏ったジークの証言を虚言と切り捨てはしなかったものの、ハーブが害をなしたのもまた真実だ。そうそう簡単に考えを覆してくれるとは、ミオも思っていない。いわば想定内の問答。