異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

 手渡されたボールに水を張り、その中にカレンデュラを入れ花弁を潰さないよう丁寧に水で汚れを落とす。使うのは花びらだけ。
 洗い終わったらしっかり水気を切り、花弁を一枚一枚手で千切り布巾を敷いたバレットに並べる。その上からさらに布巾で挟み水分をしっかりと取った。
「本当は乾燥させたカレンデュラを使いたいけれど、時間がないからこのまま使いましょう」
 うまくいくか少々不安だけれど、そこは「神の気まぐれ」の力で何となるだろうと前向きに考ることに。
「ミオ、俺、何を作っているのか分からないんだけれど」
 オレンジの花びらをプチプチ千切りながらもジークは警戒を解いていない。視線があちこちに飛び、店の外の気配にも気を配っている。
「軟膏よ。ヤロウで作ったのと基本的には同じ作り方。蜜蝋もあるし、容器は……」
 と、そこで手が止まる。本来ならジークが空き缶を持ってきてくれる予定だったけれど、突然の襲撃ゆえ今ここにはない。
 それなら、とハーブが並ぶ棚の下の扉を開け、空の瓶を取り出した。高さ二十センチほど、普段はドライハーブを入れるのに使っている瓶だ。
「これを使いましょう。騎士団には乱雑に扱っても割れないよう缶を使ったけれど、瓶でも保存期間は変わらないわ」
 煮沸消毒をしようと大きな鍋を取り出すミオに、ジークは戸惑いがちに声をかける。
「でも、ヤロウ軟膏は作るのに二週間もかかっただろう? サザリン様の火傷を見るとそんな悠長なこと言っていられないんじゃないか」
 あれだけの火傷、しかもドラゴンの炎となれば痛みは通常の五倍以上。冷やしてもケロイド状になり跡が残るのは避けられない。
「二週は、侵出油を作るのにかかった時間よ。蜜蝋と混ぜ固めるのは半日で出来たでしよ」
「それはそうだが……」
 侵出油さえ作ってしまえば、軟膏状にするのにさほど時間はかからない。溶かして固めるだけなのだから。
「今回は強行突破、一時間でカレンデュラオイルを作る!」
「えっ、一時間? いやいや、無理だろ。どんな魔法を使う気なんだ」
 二週間を一時間。あり得ないだろう。
 そんな短縮して効果はあるのかとジークが不安そうに眉根を寄せる。
 しかしミオには考えがあるようで。