少し時を戻して、飛香舎には、杏子と玲子を見送った雪子と卯紗子がいた。
「今日はもう来客はございませんよね」
「杏子様からも聞いていなので、もう来ないと思うよ」
「では、ゆっくりしていましょうか」
脇息と言われる肘掛けを使って、雪子は寛いでいた。
いや、寛ごうとしていた。
しかし、
「杏子.......女御様。失礼するぞ」
そんな声と共に来客が来た。
来てしまった。
「「!?」」
「!?もしや、雪子殿か?」
「兄上、女性の部屋に入るのは.......って、雪子様?」
さすが、杏子の兄二人。
女房でさえ、見分け困難な杏子と雪子を一瞬で判断した。
突然のことで、雪子と卯紗子は几帳に入らず、雪子は慌てて顔を扇で隠した。
「い、いらっしゃいませ。柏陽様。右近様」
「衣を変えると見分けるのが困難だな。これでは、東宮が気づくなんて無さそうだな」
「兄上、そのような失礼なことは言ってはなりませぬ」
殿上人の会話。
(見ているだけで風情ある.......)
会話の内容はかなりどうでもいいことを話しているが、そんなことは耳に入らない。
この世とは思えない優雅な物仕草を見ている時、かすかに開いている御簾から紙飛行機が飛んできた。
「これは?」
「雪子様、何かあったのですか?」
「紙飛行機が飛んできたみたい」
雪子は手に取った紙飛行機を卯紗子に見せた。
紙飛行機には文字のような模様がある。
裏側に何か書かれているのか?
(何が書いているんでしょう?気になるけど、恋文てしたら開けない方が良いよね。書いた方にも相手の方にも失礼ですし)
開きたいのをこらえていると、杏子の兄が話に加わって来た。
「雪子様。その紙飛行機、見せてくれますか?」
「え?ええ」
「右近、俺にも見せろ」
「見せてます、でしょう?」
そんな会話もしつつ、紙飛行機を見る二人の目は鋭さを帯びてきた。
「すまない。雪子殿。杏子が呼んでいるようで、一度席を退出する。後、この紙飛行機、借ります」
「退出時もばたばたですみません。今度、わびの品を届けます」
そう言って、雪子の手から紙飛行機を取ってどこかへ投げると、外に出て行ってしまった。
来るときも急だったが、帰りも急である。
あっけに取られていたが、我に返ると、杏子と玲子が心配になって来た。
(杏子様の兄君方が慌てて出るなんて、何かあったのでしょう。二人が心配だけど、わたくしには......)
雪子には誰かのために矛になるほどの武術はない。
誰かを庇えるために盾になるほどの権力もない。
誰かを導くために書になるほどの知力もない。
役に立つものは何も持っていない。
いるだけで足手まといになってしまう。
それでも、それでも、それでも、誰かのために動きたかった。
「卯紗、行きましょう」
「どこに行くんですか?」
雪子がどこに行くのか分かってそうな顔で聞いてきた。
耳はこちらを向いているが、体は動いていた。
「杏子様と玲子の元へ」
体は震えている。
杏子と玲子のところに行くためには弘徽殿の前を通らないといけない。
つい最近まで、いじめられていた場所。
怖くない、と言ったら嘘になる。
(でも、行かないと)
杏子の姿となった雪子は一歩踏み出した。
「今日はもう来客はございませんよね」
「杏子様からも聞いていなので、もう来ないと思うよ」
「では、ゆっくりしていましょうか」
脇息と言われる肘掛けを使って、雪子は寛いでいた。
いや、寛ごうとしていた。
しかし、
「杏子.......女御様。失礼するぞ」
そんな声と共に来客が来た。
来てしまった。
「「!?」」
「!?もしや、雪子殿か?」
「兄上、女性の部屋に入るのは.......って、雪子様?」
さすが、杏子の兄二人。
女房でさえ、見分け困難な杏子と雪子を一瞬で判断した。
突然のことで、雪子と卯紗子は几帳に入らず、雪子は慌てて顔を扇で隠した。
「い、いらっしゃいませ。柏陽様。右近様」
「衣を変えると見分けるのが困難だな。これでは、東宮が気づくなんて無さそうだな」
「兄上、そのような失礼なことは言ってはなりませぬ」
殿上人の会話。
(見ているだけで風情ある.......)
会話の内容はかなりどうでもいいことを話しているが、そんなことは耳に入らない。
この世とは思えない優雅な物仕草を見ている時、かすかに開いている御簾から紙飛行機が飛んできた。
「これは?」
「雪子様、何かあったのですか?」
「紙飛行機が飛んできたみたい」
雪子は手に取った紙飛行機を卯紗子に見せた。
紙飛行機には文字のような模様がある。
裏側に何か書かれているのか?
(何が書いているんでしょう?気になるけど、恋文てしたら開けない方が良いよね。書いた方にも相手の方にも失礼ですし)
開きたいのをこらえていると、杏子の兄が話に加わって来た。
「雪子様。その紙飛行機、見せてくれますか?」
「え?ええ」
「右近、俺にも見せろ」
「見せてます、でしょう?」
そんな会話もしつつ、紙飛行機を見る二人の目は鋭さを帯びてきた。
「すまない。雪子殿。杏子が呼んでいるようで、一度席を退出する。後、この紙飛行機、借ります」
「退出時もばたばたですみません。今度、わびの品を届けます」
そう言って、雪子の手から紙飛行機を取ってどこかへ投げると、外に出て行ってしまった。
来るときも急だったが、帰りも急である。
あっけに取られていたが、我に返ると、杏子と玲子が心配になって来た。
(杏子様の兄君方が慌てて出るなんて、何かあったのでしょう。二人が心配だけど、わたくしには......)
雪子には誰かのために矛になるほどの武術はない。
誰かを庇えるために盾になるほどの権力もない。
誰かを導くために書になるほどの知力もない。
役に立つものは何も持っていない。
いるだけで足手まといになってしまう。
それでも、それでも、それでも、誰かのために動きたかった。
「卯紗、行きましょう」
「どこに行くんですか?」
雪子がどこに行くのか分かってそうな顔で聞いてきた。
耳はこちらを向いているが、体は動いていた。
「杏子様と玲子の元へ」
体は震えている。
杏子と玲子のところに行くためには弘徽殿の前を通らないといけない。
つい最近まで、いじめられていた場所。
怖くない、と言ったら嘘になる。
(でも、行かないと)
杏子の姿となった雪子は一歩踏み出した。