芳子と近江が去った後、


 「さあ、雪子様。交換と行きましょう!」


 杏子が立ち上がって、雪子に言った。

 元に戻ったのは芳子がいたからであり、いなくなった今、入れ替わりが可能となった。


 「わたくし、杏子様のように初対面の方と上手に話せません.......」


 この後宮で一番位が高い杏子にはまたいつ来客が来るか分からない。

 男なら、御簾や几帳越しだったり、代理の人が言ってくれるのでなんとかなる。

 だが、屋敷の中に入ることができる妃やその側仕えには誤魔化しがしにくい。


 「大丈夫です!雪子様、初対面の芳子様と仲良くお話していましたよ」

 「それは、わたくしが知っている話題でしたので.......」

 「基本的に会話の内容は今日のようなことですよ」

 「.......それなら、交換しましょう」


 しばらく考えたのか、返答には時間がかかったが了承を貰った。


 「やった!ありがとうございます」

 「杏子様、何か起こさないでくださいね」

 「何も起こさないよ?前回も起こしていないもの」


 心外である。

 (私、何もしていないんだけど)


 「あの報告を聞いて、何も起きていないわけないですよ。玲子さん、杏子様のことよろしくお願いします」


 いつの間にか、様付けだったのがさんになってて、玲子と仲良くなっていることに羨ま.......ではなく微笑えましい。

 (わたくしだって、玲子と仲良くなりたい.......!)

 杏子にはさん付け、または呼び捨てで呼ばれるのは家族と帝、東宮ぐらいである。

 昔は卯紗子も呼び捨てで読んでいたが、いつの間にか様付けとなってしまい、呼び捨てで呼んで、とお願いしても無理の一言で終わる。


 「杏子様、袿と唐衣を交換するので、脱いでください」


 杏子は卯紗子の手によって、袴の姿になった。

 下が紅に上は白練。

 袴は長いが、神社の巫女のように見える。


 「1枚は肌寒いですね」


 同じく袴姿となった雪子は両手を腕に当ててさすっていた。


 「こちらを」


 卯紗子から渡された普段着ている衣よりも少し落ちて、生地が分厚い袿とほとんど模様がない唐衣を着た。



 「雪子様、行ってきますね。卯紗、雪子様をよろしく」

 「任せて下さい!」

 「行ってらっしゃいませ、杏子様。文で報告しますね。頑張って下さい、玲子」

 「はい」


 杏子は雪子の身代わりとして、雪子は杏子の身代わりとして、再び生活が始まった。