「杏子、今年の秋、そなたは入内することになった」
入内とは、皇后、中宮、女御になる方が正式に内裏へ入ること。
いわば、帝と結婚すること。
天よりもはるか遠い帝や東宮と婚姻を結び、子を成すことで貴族は更なる栄誉を手に入れることができた。
そのため、多くの貴族は娘を内裏に入れているが、杏子の家は違う。
初代帝の頃から帝の右腕として補佐する家系で長い伝統と位があり、これ以上栄誉は必要無いからだ。
ではなぜ杏子が入内することになったのかというと
「この間の会議で、帝から杏子を東宮と結婚するようにとお願いされてしまって......」
「兄上ったら......。断っときましょうか?」
母と帝は国母と呼ばれる皇太后から生まれた同母兄妹。
臣下の正妻となった今でも、会ったり連絡をしているので、お願いを断るのは出来る。
だけど、杏子は
「わたくしのために、帝のお願いを断るなどできません。父上、母上、......入内しようと思います」
いくら帝にお願いを断れる立場だからといっても、杏子の思いだけで断ることはできない。
「私は一応左大臣で紀子は、帝の妹君だ。普段は使わない権力を駆使して杏子を幸せにするからな!安心しなさい」
「......はい」
父はそう言って杏子の不安を取り除こうとしていたが、杏子の気持ちは上がることがなかった。
「杏子様、お帰りなさい!何を話されたんですか?」
自室に戻ると女房の卯紗子が聞いてくる。
卯紗子の明るさで、杏子の気持ちが少し浮上した。
「ねえ、卯紗。私、内裏っていうところに行くみたい」
「確か内裏って、杏子様が行きたくない場所第一位ですよね?一体なぜ?」
「帝からのお願い」
「それは断れませんね」
「でしょ。わたくしは内裏なんて行きたくない。内裏なんかよりも外の世界に行きたかった......!」
この世界はたくさんのことが毎日起こってる。
杏子が知っていることよりも知らない方がはるかに多い。
新しいことを知って、見たことない景色で胸が動く......!
杏子の夢は屋敷の中で一生を終える上流家庭のお姫様には理解できない荒唐無稽のようなもの。
それでも、それでも、外の世界に行きたかった。
夢が本当になる前に潰えてしまった。
杏子の大きな瞳から落ちる雫が着物を濡らしていく。
「杏子様......。きっと、内裏も楽しいところだと思いますよ!先日、お姉さんから聞きました。女達の戦場だと」
「女達の戦場?」
内裏は優雅な場所。
1度、杏子は紀子につられて、帝が住む清涼殿に行ったことがある。
静かで、荘厳で、誰もいない大きなところだった。
そこで会ったのは従兄弟とおじいちゃんだけ。
普通に和やかで楽しい時間を過ごした杏子には戦場なんて感じない。
昔、弓や剣を持って決闘でもした人がいたのか?
「はい!悪口、陰口は当たり前。時には直接的な嫌がられや食事に毒が盛られていたらしいですよ」
女達は男達の喧嘩よりも静かに行われる。
でも、その裏側は真っ黒で深い。
男の喧嘩よりも裁ちが悪くて精神にくる。
「毒ぐらいなら見抜けるけど、陰口、悪口はともかく直接な嫌がらせね〜。これって、反撃とかしても大丈夫なの?」
実目麗しい美女で、白魚の手で詩を紡ぎ、国一番の琴名手なんて言われると、深窓にふける大人しい姫君を予想してしまうが、違う。
むしろその反対。
杏子は見た目こそは深窓の姫君だが、中身はやられたらやり返す、中でじっとしているより外で動いていたい大人しいとかけ離れた姫だった。
「大事にしなければ大丈夫だと思いますけど、杏子様を悪くするなんて......。杏子様、私が全力で守ります!」
「それは嬉しい。外の世界に行けないからって悲しんではいけないよね。きっと何か楽しいことが待っているかもしれない......!卯紗のおかげで、元気になったよ」
「それは嬉しいです!」
杏子と卯紗子が盛り上がっているところ悪いが、杏子は左大臣の娘で東宮の従姉妹。
果たして、そんな杏子に嫌がらせをする人はいるのだろうか。
いたら、その勇気を称えるほどである。
入内とは、皇后、中宮、女御になる方が正式に内裏へ入ること。
いわば、帝と結婚すること。
天よりもはるか遠い帝や東宮と婚姻を結び、子を成すことで貴族は更なる栄誉を手に入れることができた。
そのため、多くの貴族は娘を内裏に入れているが、杏子の家は違う。
初代帝の頃から帝の右腕として補佐する家系で長い伝統と位があり、これ以上栄誉は必要無いからだ。
ではなぜ杏子が入内することになったのかというと
「この間の会議で、帝から杏子を東宮と結婚するようにとお願いされてしまって......」
「兄上ったら......。断っときましょうか?」
母と帝は国母と呼ばれる皇太后から生まれた同母兄妹。
臣下の正妻となった今でも、会ったり連絡をしているので、お願いを断るのは出来る。
だけど、杏子は
「わたくしのために、帝のお願いを断るなどできません。父上、母上、......入内しようと思います」
いくら帝にお願いを断れる立場だからといっても、杏子の思いだけで断ることはできない。
「私は一応左大臣で紀子は、帝の妹君だ。普段は使わない権力を駆使して杏子を幸せにするからな!安心しなさい」
「......はい」
父はそう言って杏子の不安を取り除こうとしていたが、杏子の気持ちは上がることがなかった。
「杏子様、お帰りなさい!何を話されたんですか?」
自室に戻ると女房の卯紗子が聞いてくる。
卯紗子の明るさで、杏子の気持ちが少し浮上した。
「ねえ、卯紗。私、内裏っていうところに行くみたい」
「確か内裏って、杏子様が行きたくない場所第一位ですよね?一体なぜ?」
「帝からのお願い」
「それは断れませんね」
「でしょ。わたくしは内裏なんて行きたくない。内裏なんかよりも外の世界に行きたかった......!」
この世界はたくさんのことが毎日起こってる。
杏子が知っていることよりも知らない方がはるかに多い。
新しいことを知って、見たことない景色で胸が動く......!
杏子の夢は屋敷の中で一生を終える上流家庭のお姫様には理解できない荒唐無稽のようなもの。
それでも、それでも、外の世界に行きたかった。
夢が本当になる前に潰えてしまった。
杏子の大きな瞳から落ちる雫が着物を濡らしていく。
「杏子様......。きっと、内裏も楽しいところだと思いますよ!先日、お姉さんから聞きました。女達の戦場だと」
「女達の戦場?」
内裏は優雅な場所。
1度、杏子は紀子につられて、帝が住む清涼殿に行ったことがある。
静かで、荘厳で、誰もいない大きなところだった。
そこで会ったのは従兄弟とおじいちゃんだけ。
普通に和やかで楽しい時間を過ごした杏子には戦場なんて感じない。
昔、弓や剣を持って決闘でもした人がいたのか?
「はい!悪口、陰口は当たり前。時には直接的な嫌がられや食事に毒が盛られていたらしいですよ」
女達は男達の喧嘩よりも静かに行われる。
でも、その裏側は真っ黒で深い。
男の喧嘩よりも裁ちが悪くて精神にくる。
「毒ぐらいなら見抜けるけど、陰口、悪口はともかく直接な嫌がらせね〜。これって、反撃とかしても大丈夫なの?」
実目麗しい美女で、白魚の手で詩を紡ぎ、国一番の琴名手なんて言われると、深窓にふける大人しい姫君を予想してしまうが、違う。
むしろその反対。
杏子は見た目こそは深窓の姫君だが、中身はやられたらやり返す、中でじっとしているより外で動いていたい大人しいとかけ離れた姫だった。
「大事にしなければ大丈夫だと思いますけど、杏子様を悪くするなんて......。杏子様、私が全力で守ります!」
「それは嬉しい。外の世界に行けないからって悲しんではいけないよね。きっと何か楽しいことが待っているかもしれない......!卯紗のおかげで、元気になったよ」
「それは嬉しいです!」
杏子と卯紗子が盛り上がっているところ悪いが、杏子は左大臣の娘で東宮の従姉妹。
果たして、そんな杏子に嫌がらせをする人はいるのだろうか。
いたら、その勇気を称えるほどである。