楽器の手入れをしていると早穂ちゃんが遠慮がちに話しかける。
パートごとに片付けをしているので隣には早穂ちゃんが座っている。楽器をふく手をとめ、私を見る。
「二階堂先輩のクラスに出雲さんが転校してきたというのは本当ですか?」
「……え?」
早穂ちゃんの言葉にドキッとした。
どこで聞いたのか分からないけど何故か出雲くんの名前が出てきて。心臓が異常なまでに大きく跳ね上がる。
「ほ、本当だけど……いきなりどうしたの」
明らかに動揺する私。
思わず華奈の方に目をやるけど、華奈は仲間と楽しそうに話していて。会話は聞こえていなかった。
「やっぱり……。あの、いきなりなんですけど……出雲さんを、ウチの吹奏楽部に入れてもらえませんか?」
「へ?出雲くんを?」
目を泳がせながら必死にそう話す早穂ちゃん。早穂ちゃんは私と違う中学校出身だ。
だから出雲くんの功績を知らないはず。
なのになんで……。
「私……出雲さんのファンなんです。出雲さん、吹奏楽部で推薦されて県外の高校に行ってますよね?何回か、その高校のコンサートを見に行ったことがあるんです」