幻かと思った。


見間違いかと思った。


君を見た瞬間、懐かしい思い出がたくさん蘇ってきて、胸が苦しくなる。


ここにいるはずのない君がここにいるなんて。


なんでここにいるの?


そう聞けばよかった。だけど。


悲しそうに見つめるその横顔を見て、何も言えなくなった。話しかけても、上手く言葉が出てこなかった。


ねぇ。


なんで君はそんな悲しそうなの?


なんで君は。いないはずの君は、ここにいるの?


ねぇ。


教えてよ。


***


「それじゃあ合奏始めます。まず課題曲から」



ある日の放課後。


音楽室に集まった吹奏楽部員は、椅子に座り楽譜と先生とにらめっこしていた。まだ4月だというのにピリピリとしたこの空気。


正直居心地がとても悪い。


夏の大会なんてまだまだ先なのに。


今からこんなに練習して、一体何になるの?


訳の分からない気持ちが押し寄せて、イライラが止まらない。


所詮ウチは弱小吹奏楽部。


先生もそれは分かってるよね?