「今更全国大会目指したってしょうがないじゃん?そりゃ、昔から夢見てた全国大会に出られたら最高だよ。でも、なんか今更すぎて。もう、あんな悔しい思いをしながら音楽したくない。悔しい思いをするくらいなら全国大会を目指したくない。……そう思ってるけど……」



心のどこかではまだ全国大会への気持ちは残っていた。


何回も悔しい思いをした全日本吹奏楽コンクール。毎年1月には課題曲を渡されて。自由曲も決めて。


今年こそはって意気込んでいたけど。


この頑張りは、無駄なんだなって思ってしまう自分もいて。


こんな思いをするなら高校では吹奏楽部をやらなければ良かったんだ。そう思って吹奏楽部には入らないつもりでいた。だけど、結局音楽を……ホルンを忘れられなくて。気づいたらまた吹奏楽部のドアを叩いていて。


無駄に足掻いていた。



「その気持ち、みんなに話したらいいんじゃない?」


「……え?」


「本当はみんなと全国大会目指したいんだろ?二階堂のホルンを聞いていたから、よくわかる」



まっすぐ私を見つめる出雲くんは、昔の優しい瞳をしていた。出雲くんにとっては何気ない一言だったかもしれない。でも、その言葉を聞いた瞬間、閉じ込めていた思いが溢れるかのように、胸が熱くなる。



「……」


「僕みたいに、後悔する前に、動いた方がいいんじゃない?」