目の前を通った、楽器に目がいって。
反射で聞いていた。それは、あの男の子が吹いていた楽器で。ホルンというらしい。
管がぐるぐる巻きになっていて、まるでカタツムリみたい。だけどなんだかとてもかっこよく見えて。
私も、あの男の子のような音が出せるようになるなら。ホルンに挑戦したい。
「なんだい?ホルンが気になるかい?」
「……はい」
不順な動機過ぎて華奈みたいに自分から“やりたい!”といえなかった。
返事をすることしかできなくて。
そんな自分が恥ずかしくて俯く。
「そうか。じゃあ……おーい、出雲!すまんが、この子を練習する教室に連れてってくれ!」
ーードキッ。
“出雲”という名前が先生から飛び出た時。椅子に座り、楽譜とにらめっこしていたあの男の子と目が合う。
まさか、いきなり目が合うなんて……。
「いいですけど、僕でいいんですか?」
「ああ。ホルンパート、今ここにはお前しかいないからな。出雲に頼みたい」