『そうか。琴乃がそう言うなら、きっとそうなんだろうね。僕たちの努力も無駄じゃなかった』
高校を卒業したあとは吹奏楽部の世界から完全に身を引いた僕ら。たまにホルンが恋しくなるけど、未練はない。
だって、あの時全力で大会に挑めたから。
琴乃も、懐かしいく眺めるだけできっと後悔や未練はないだろう。
「じゃあ行こうか」
『そうだね』
しばらく学生を見たあと琴乃は微笑みながら僕の手を握る。いつも自分から行動する琴乃は眩しくてかっこいい。
そんな琴乃の隣にいられる自分は最高に幸せ者だ。吹奏楽部があったからこそ出会えた僕と琴乃は。
これからも“自分の音”と“自分の道”を信じて歩く。ずっと隣でいられるように、頑張るから。
自分から音の世界がなくなっても、もう絶望したりしないから。
だから……これからもよろしくな。
握られた左手をぎゅっと強く握りしめる。補聴器が取れて耳が軽くなった今。
絶望しないで前を向いて歩けるようになったんだ。
琴乃。
ありがとう。
これが、君と過ごす最後の夏の思い出の話。青春全て捧げた六年間。吹奏楽部に捧げた六年間に。終止符が打たれた話だった。
【終わり】