華奈が状況を理解し始めたのか、だんだん興奮してきた。だけど、私はまだ状況を理解出来ずに、彼をずっと見つめたまま視線をそらすことが出来ずにいた。
心臓は、ずっとドキドキしていた。
「お、落ち着いて……確か、に出雲くんだよ。だいぶ大人っぽいけど、面影は出雲くんだよ」
無意識のうちにそう言っていた。
心は混乱しているのに、頭の中ではやけに冷静で。
自分でも、わけが分からなかった。
……どれくらい時間がたっただろうか。私と華奈はそれ以上何も言わずに彼……出雲くんを見ていた。
彼の優しく、綺麗な音色を聴きながら。
そして、ふと演奏が止まる。
何かを察したのか、出雲くんは私と華奈の方を振り向き、一瞬驚いたような表情をする。
だけどすぐに表情を戻し、楽器を片付け始めた。
私と華奈はお互いに目を合わせ、頷く。
“話しかけてみよう”という合図だ。
「あ、あの……」
「何?」
私は勇気を出して出雲くんに話しかける。
でも、私を見る彼の目は冷めきっていて、どこか虚ろな感じだった。