そう心の中で呪文のように唱えた。緊張で吐きそうになりながらも何とか舞台袖まで歩き、待機する。


今ステージでは私たちの前の学校が演奏していて全部の音が耳に入ってきた。そのせいで余計に緊張してしまう。



「……琴乃。大丈夫」


「え……?」



怖くなって1人深呼吸していると近くに出雲くんがいて、そっと耳元で囁かれる。耳をすまして聞かないと聞こえないほど小さな声。


だけどその声はどんな音よりもはっきりと聞こえて、自分の胸の奥まで染み渡る。


どんな呪文の言葉よりも出雲くんの“大丈夫”という言葉が1番の薬に思えた。



「……ありがとう」



出雲くんの言葉を聞いてスっと心が軽くなる。不安だった気持ちが一気に晴れ渡る。顔を上げると少し離れたところにいた華奈と目が合った。


その時、私を見て頷いた。まるで私の不安を見え透いたかのような反応に“大丈夫”と言われてるようだった。


こんなにも心強い仲間がいるんだ。


不安がっている暇はない。私はそっと息を吸うと前を見た。前の学校の演奏が終わり舞台袖に戻ってくる。


それとほぼ同時にアナウンスが流れた。



『プログラムナンバー14番、桜華学園高等学校吹奏楽部。課題曲は……』