たくさんの音と出会いをくれた出雲くん。出雲くんがいたから私はきっと吹奏楽部の世界でやってこれたんだと思う。



「出雲くん。私も出雲くんが一筋の光だったよ。ありがとう」



私は背伸びをして出雲くんの補聴器がつけられている左耳に囁いた。また私の前に現れた君がいたから希望が持てた。


ずっとずっと、出雲くん……いや、真宙くんのことを思っていたのかもしれない。


出雲くんと出会っていなければ、この甘酸っぱい気持ちも知らなかったかもしれない。世の中ではこの気持ちを“恋”と呼ぶのだろうか。


気づくといつも出雲くんのことを考えていて。それは中学の頃から変わらなかった。



「「……」」



急に恥ずかしくなり、黙り込む私と出雲くん。すると何を思ったのか私の右手を出雲くんが握る。


ゴツゴツとした大きな手に包まれながら電車に揺られ、家に向かった。私たちの戦いはこれからだ。


みんなと最高の音楽を奏でたい。


その気持ちは色褪せることなく、大会本番まで強く強く思っていた。


***


ーー6月最後の週末。


1週間は本当にあっという間だった。大会前最後の部活も無事に終わり大会本番を迎えた。