先生がそんな前から勧誘していたなんて。余程吹奏楽に命をかけていたんだなと思ってしまった。
私が気づく前に、話す前に目をつけていたなんて。それほど出雲くんは吹奏楽界隈で有名な人なんだ。
「でもその時はもう完全に吹奏楽部にやる気を無くしていたよ。こんな僕に音楽をやる資格はないと思っていたから」
悲しそうに目を伏せると、コーヒーを1口すする。確かに出会った頃はそんなふうに見えた。
まるで、全てを諦めたかのようなそんな目をしていたから。でも、久しぶりに聞いた出雲くんのホルンは全然そんなんじゃなかった。
一度自分の音を見失ったけどまた希望を取り戻したそんな希望に満ちた音楽だった。
「……そんなこと、勝手に決めないでよ。私、中学の頃出雲くんと琴乃のホルン好きだったよ。楽しそうに、吹いてる音楽が好きだった」
私が黙って話を聞いてると、ここに来て初めて華奈が口を開いた。思いもよらぬ発言に私は目をぱちくりさせる。
……そんなこと思っていたの?
初めて聞いた。
「九龍……。そう言ってくれて嬉しい。ありがとう」