「二階堂。ちょっといいか?」
リハーサルが終わり、片付けをしていると出雲くんに呼ばれた。私は声の聞こえた方に振り向いた。
辺りを見渡すと、気づいたら周りの部員たちは既に舞台袖に移動していた。人はまばらだった。
「うん。どうしたの?」
「今日の帰り少し時間もらえないか?話がある」
「……わかった」
話があると言われすぐに頷く。出雲くんからそんなふうに言われるのは初めてで、少し驚いたけど同時に嬉しくもなった。
「九龍とも話をしたいから声をかけててくれると助かるんだが……」
そう言いながらちらっと華奈の方を見る。再会した時、あまり良くない印象で会った2人だから話しかけずらいのだろう。
出雲くんは華奈とも向き合おうとしてるんだ。そう思った瞬間、反射で頷く。
「いいよ。華奈に声かけとくね」
「ありがとう」
そんな私を見てほっとしたように笑う出雲くん。どんな話になるんだろう、と若干不安に思ったがそれは全力で消し去った。
だって、出雲くんはようやく前を向いて歩いているから。そんな彼を邪魔しちゃいけない。
これは私が望んだ未来でもあるから。
私は片付けを急ぎ、華奈に話をしながらリハーサルしたホールを後にした。