何を思ってここに来たのか分からない。


私は息をするのも忘れて、出雲くんの話を聞いていた。



「僕は吹奏楽の推薦で他校に行きました。でも、突然耳が聞こえなくなりました。突発性難聴を患ったんです」



みんなに聞こえるようにゆっくり話す。


華奈はどうしているだろうとそっと視線だけを動かす。華奈は口元に手を当て、涙を静かに流していた。



「こんな自分は音楽をする資格はない。そう思って自分から音楽の世界から身を引いて、この学校に転校しました。でも、やっぱり音楽を……ホルンを手放せなくて。1人、こっそりと中庭で吹いていたんです」



中庭で演奏していた出雲くんを思い出す。


楽しい音楽のはずなのにそうは聞こえなくて。完璧に吹けていてもひとりぼっちで楽しくなかっただろう。



「そうしたら、二階堂さん……琴乃が僕をまた見つけてくれて、音楽の世界に引き戻してくれました。何度も断ったのに、何度も僕と向き合ってくれた。本当に感謝しかありません」



話を聞いていると突然名前を呼ばれ、反射で立ち上がる。もう、充分。充分だよ、出雲くん。



「ありがとう、琴乃」


「出雲、くんっ……」



3年前の優しい彼が戻ってきたようだった。優しく私の名前を呼ぶと、ニコリと微笑む。