早穂ちゃんは不思議そうに聞く私にキョトンとしながら答えてくれた。先生から何も話は聞いていないんだけど……。
どういうことだろう?
私は先生を見るけど特に何も反応は返ってこない。さっき話した時も何も言われなかったし。
頭の中ははてなマークだらけでどうしたらいいか分からなくなる。心臓がやけにドキドキしていた。
分からないけど……なんか、ドキドキする。
「それじゃあリハーサル始めましょうか。各自席について楽器を準備して」
先生の声にハッと我に返る。はい、という返事がホールに響き渡り、みんな楽器を構え始めた。
私も慌ててホルンを抱き抱えて楽譜をめくる。そして椅子の謎を残したままリハーサルが始まった。
「じゃあまずは課題曲から」
先生がリズムを指揮棒で取り始める。すると、軽やかなマーチのイントロが流れた。課題曲は順調に演奏され、指揮棒を見ながら演奏する。
Aメロ、Bメロを吹いたあと、課題曲の中ではメインのメロディをホルン、トロンボーン、トランペットが奏でる。
楽譜を目で追いながら、メロディを吹こうと息を吸い込む。
ーーその時。
先生は、そっと目を逸らし、舞台袖の方に指揮棒を回す。