1歩歩いたところでわざと思い出したたようにもう一度振り向いた。私はポケットに入れていた紙を取り出すと出雲くんに乱暴に渡す。
勧誘はしないと決めたけど、これくらいはいいよね?
別に音楽きいてもらうだけだし。
なんて心の中で言い訳のようなものを並べる。
「あ、おい二階堂!」
「じゃ、またね」
紙を握らせると私はそそくさと保健室を後にした。出雲くんに名前を呼ばれたけど振り向かずそのまま廊下に出る。
その途端に体の力が抜けてズルズルと座り込んでしまった。無意識に緊張していたのか、誰もいない廊下で泣いていた。
「……う、ヒック……」
保健室には出雲くんがいるから声を出して泣けないけど。これくらいはいいよね。
初めて出雲くんの言葉を聞いて、不安な気持ちを聞いて。受け止めると言ったくせに心の中ではいっぱいいっぱいだった。
思った以上に自分の不安を溜め込んでいてそれを直接感じられて。ごめんなさい、と何度も心の中で謝っていた。
***
「打楽器運ぶの手伝ってー」
「違う違う。その楽器はそこじゃないよ」
大会本番1週間前。
私たち吹奏楽部は大会が行われるホールにいた。