“自分の音を見失った”。
先生のその言葉が妙に心の中に落ちていった。今の出雲くんはホルンは吹けているけど、どれも過去のモノだった。
音楽も、自分の音もおそらく記憶を辿って勘で吹いている。その証拠に中庭で見つける時はいつも楽譜はなかった。
ホルンと出雲くんだけで音楽を奏でている。どれも素敵だけど“新しい音”では無いのだろう。
「私としては吹奏楽部の世界に戻ってきて欲しいけど。本人に無理させられないしねぇ……。多分音楽ができなくなってこっちの学校に転校してきたんだと思うわよ」
「そうですよね。自分もそう思います」
きっと出雲くんはまだまだ音楽をやりたいはず。ホルンを吹きたいはず。
でも、自分の病気と上手く向き合えなくて自分から音楽の道を閉ざした。いくらでも音楽を楽しむ方法はあるはずなのに。
出雲くん……やっぱり、音楽を手放せていないんじゃないかな。まだ……やりきれていないんじゃないかな。
「まぁ、無理ない程度に気にかけてあげて。二階堂さんなら大丈夫だと思うけど」
先生はそう言ってぽん、と私の肩を叩く。
そして顧問の先生の方へと行ってしまった。