「……してます、けど断られました」
「そう。やっぱりね。あの子、耳が聞こえなくなってからすっかり心閉じちゃって。出雲さんのホルンの音好きだったんだけど」
私の反応を見てそっとため息をつく先生。
私はドキドキが止まらない。なんで先生が出雲くんの病気のこと知ってるの?
誰にも話してないよね……?
「あ、出雲さんは別の高校で何度か私のレッスン受けたのよ。だから知り合い程度。ちょうど病気がわかった頃もいたから、心配していたのよ」
黙り込んでしまった私を見て思い出したように話す。……なるほど。出雲くんのことを知っていたのはそういうことか。
この先生は有名な先生で全国各地の高校を回っているらしい。だから強豪校の話をしてくれたり、自分の経験をよく話してくれる。
知り合いと言われて納得した私は、口を開いた。
「出雲くん、言ってました。“自分はもう音楽を楽しめる体じゃない。資格がない”って」
あんなに寂しそうに言った言葉を忘れることは出来なかった。ずっと私の中に残っていて、今でもはっきりと覚えている。
「それは前の学校でもよく言っていたわ。彼、音楽をあんなに楽しそうにしていたのに。耳が聞こえなくなって、絶望してるのよ。合奏にもまざれなくなって、自分の音を見失ったのよね」