♢風呂場で鉢合わせ【レモン酢ドリンク】
私がお風呂にいつも通り入っていた時の話だ。時々アシスタントたちがシャワーを浴びたりもするが、基本、私とエイトくらいしか入ることはない浴室。私が掃除は担当している。温泉入浴剤に癒されながら入浴する。エイトの趣味でたくさんの全国各地の温泉の素があったりする。私も温泉は好きなので、毎日違う入浴剤を選ぶのが楽しかったりする。基本入浴は私が先に入る。
エイトは死神の仕事もあったり、漫画家の仕事もあったりで入浴は深夜になることが多い。もちろん、ドアには入浴中というカードを貼っているので、お互いに間違えて入ることもないのだが……。
ガラガラとドアが開いた。サイコさんか誰か女性が入ってきたのかなと思ったのだが――金髪の華奢な男が入ってくる。
「あれ? 入っていたのか?」
エイトが意外そうな顔をする。下はタオルで巻かれているが、上半身は裸だ。私なんてお湯に浸かっているが全裸だ。
「札、さがっていなかったから」
顔色を変えず、入口を指さすエイト。
「そういう問題じゃないでしょ。出ていってよ。セクハラ親父」
「はぁ? なんで俺がセクハラ親父なんだ。ここは俺の家だし、わざとじゃない、札が悪いんだ」
「とにかく、出ていってよ。私ももうすぐ上がるから、着替えはリビングで服を着ること」
「はいはい。まぁ、ガキの裸なんて見ても俺は気にも留めないがな」
「私が気にするし、それって、法律に引っかかる大問題なんだから。あんたの裸もみたくないし」
「ったく、わかったよ。出ればいいんだろ」
「謝りなさい!!」
「わるかったよ」
怪訝そうな男はその場を去って、リビングのほうに向かったようだ。私はそうっとタオルを全身に巻いて脱衣所に人がいないことを確認した。そして、素早くパジャマに着替えた。
パジャマ姿の私がリビングに行くと、エイトがテレビを観ていた。
「今度、また入ってくることがないように鍵つけてもらおうかな」
「でも、倒れた時、鍵かかってたら命に関わるぞ」
この男、私を女としてみていないのだろう。顔色一つ変えない。でも、女性の裸を見慣れているタイプでもないみたいだし。わからないやつ。
「これ、飲むか?」
エイトがドリンクを作ってくれていた。もしかしてお詫びのつもりかな。
「なに? この飲み物は?」
目の前には炭酸水のようなきれいな色合いのドリンクがある。
「レモン酢ドリンク。風呂上がりにレモンを酢でつけて作ったドリンクと炭酸水を混ぜたドリンクは、美容に効果てきめんらしいぞ」
「ほんのり甘い?」
「はちみつ入りだ。肌が美しくなれば、男子からモテる可能性がグッとあがるぞ」
「ちょっと、モテない女子みたいな言い方しないでよ」
私は、ぐっとドリンクを飲み干す。その様は、銭湯で片手を腰に置きながら牛乳を飲む子供の様かもしれない。
「私のこといくら女として意識していないからって、もうすぐ18歳になる女性なんだから、そこのところ考えてよね」
「悪かったよ。札はひもが切れて、落ちていたみたいで気づかなかったんだよ。頑丈な札をつくらないとな。俺は、別に親子みたいに一緒に風呂に入っても構わないけどな」
「何言っているの? 女性経験もないんでしょ? 浴槽に入っていたからいいものの、私の裸見たら興奮するに決まってるよ」
「興奮するわけないだろ!! おまえの寝間着姿だって見慣れたしな」
「家族だし、いつもカチッとした格好ばかりではいられないよ。私だってエイトの部屋着姿、見慣れてますけど」
「だいたい、おまえには色気も何もないだろ。俺は家族にそういった感情は持たないようにしているんだよ」
「そりゃ、そうだけど。エイトの上半身みたら私はドキッとするから極力見せないでよね」
すると、エイトが黙る。
「俺の上半身を見るとドキッとするのか?」
「別にそういう意味じゃないけど、エイトのにおいにはドキッとするよ。だって、今まで男の人って接したことないから。私にはお父さんもいなかったわけだし」
少しの沈黙の後に、エイトが語りだす。
「本当の家族になりたいんだよな。それってドキッとしない関係ってことだしさ」
「エイトってこの前も泥酔して私に抱き着いて寝ちゃうし、その前は疲れすぎて私に寄りかかりながら寝ちゃうし、どうにかならないの?」
「……わりぃ。気を付ける。おまえといると安心しちゃうのかもな」
「だって、布団取りに行くのにエイトの部屋に入らないといけないし、そうしたら、布団にはエイトのにおいがあって……」
私のことを見つめながらエイトは静かに答えた。
「俺、父親失格だな。娘が欲しかったから、娘ができた気がしてたんだよな。でも、血縁がないからな」
「私、エイトのにおいすきだよ」
「はぁ? 何言ってんだよ? 男のにおいなんていいもんじゃないぞ」
「でも、嫌な臭いじゃないの。エイトのTシャツのにおいかがせてよ」
「だめっ。お父さんはそんな不謹慎なこと許しません」
「ケチ!!」
「私の部屋にも今度来てよ。きっと私のにおいがするから」
「俺はにおいフェチじゃねーし」
よく見ると、エイトの顔が真っ赤になっている。結構うぶ? からかうとなんだかおもしろい。
私がお風呂にいつも通り入っていた時の話だ。時々アシスタントたちがシャワーを浴びたりもするが、基本、私とエイトくらいしか入ることはない浴室。私が掃除は担当している。温泉入浴剤に癒されながら入浴する。エイトの趣味でたくさんの全国各地の温泉の素があったりする。私も温泉は好きなので、毎日違う入浴剤を選ぶのが楽しかったりする。基本入浴は私が先に入る。
エイトは死神の仕事もあったり、漫画家の仕事もあったりで入浴は深夜になることが多い。もちろん、ドアには入浴中というカードを貼っているので、お互いに間違えて入ることもないのだが……。
ガラガラとドアが開いた。サイコさんか誰か女性が入ってきたのかなと思ったのだが――金髪の華奢な男が入ってくる。
「あれ? 入っていたのか?」
エイトが意外そうな顔をする。下はタオルで巻かれているが、上半身は裸だ。私なんてお湯に浸かっているが全裸だ。
「札、さがっていなかったから」
顔色を変えず、入口を指さすエイト。
「そういう問題じゃないでしょ。出ていってよ。セクハラ親父」
「はぁ? なんで俺がセクハラ親父なんだ。ここは俺の家だし、わざとじゃない、札が悪いんだ」
「とにかく、出ていってよ。私ももうすぐ上がるから、着替えはリビングで服を着ること」
「はいはい。まぁ、ガキの裸なんて見ても俺は気にも留めないがな」
「私が気にするし、それって、法律に引っかかる大問題なんだから。あんたの裸もみたくないし」
「ったく、わかったよ。出ればいいんだろ」
「謝りなさい!!」
「わるかったよ」
怪訝そうな男はその場を去って、リビングのほうに向かったようだ。私はそうっとタオルを全身に巻いて脱衣所に人がいないことを確認した。そして、素早くパジャマに着替えた。
パジャマ姿の私がリビングに行くと、エイトがテレビを観ていた。
「今度、また入ってくることがないように鍵つけてもらおうかな」
「でも、倒れた時、鍵かかってたら命に関わるぞ」
この男、私を女としてみていないのだろう。顔色一つ変えない。でも、女性の裸を見慣れているタイプでもないみたいだし。わからないやつ。
「これ、飲むか?」
エイトがドリンクを作ってくれていた。もしかしてお詫びのつもりかな。
「なに? この飲み物は?」
目の前には炭酸水のようなきれいな色合いのドリンクがある。
「レモン酢ドリンク。風呂上がりにレモンを酢でつけて作ったドリンクと炭酸水を混ぜたドリンクは、美容に効果てきめんらしいぞ」
「ほんのり甘い?」
「はちみつ入りだ。肌が美しくなれば、男子からモテる可能性がグッとあがるぞ」
「ちょっと、モテない女子みたいな言い方しないでよ」
私は、ぐっとドリンクを飲み干す。その様は、銭湯で片手を腰に置きながら牛乳を飲む子供の様かもしれない。
「私のこといくら女として意識していないからって、もうすぐ18歳になる女性なんだから、そこのところ考えてよね」
「悪かったよ。札はひもが切れて、落ちていたみたいで気づかなかったんだよ。頑丈な札をつくらないとな。俺は、別に親子みたいに一緒に風呂に入っても構わないけどな」
「何言っているの? 女性経験もないんでしょ? 浴槽に入っていたからいいものの、私の裸見たら興奮するに決まってるよ」
「興奮するわけないだろ!! おまえの寝間着姿だって見慣れたしな」
「家族だし、いつもカチッとした格好ばかりではいられないよ。私だってエイトの部屋着姿、見慣れてますけど」
「だいたい、おまえには色気も何もないだろ。俺は家族にそういった感情は持たないようにしているんだよ」
「そりゃ、そうだけど。エイトの上半身みたら私はドキッとするから極力見せないでよね」
すると、エイトが黙る。
「俺の上半身を見るとドキッとするのか?」
「別にそういう意味じゃないけど、エイトのにおいにはドキッとするよ。だって、今まで男の人って接したことないから。私にはお父さんもいなかったわけだし」
少しの沈黙の後に、エイトが語りだす。
「本当の家族になりたいんだよな。それってドキッとしない関係ってことだしさ」
「エイトってこの前も泥酔して私に抱き着いて寝ちゃうし、その前は疲れすぎて私に寄りかかりながら寝ちゃうし、どうにかならないの?」
「……わりぃ。気を付ける。おまえといると安心しちゃうのかもな」
「だって、布団取りに行くのにエイトの部屋に入らないといけないし、そうしたら、布団にはエイトのにおいがあって……」
私のことを見つめながらエイトは静かに答えた。
「俺、父親失格だな。娘が欲しかったから、娘ができた気がしてたんだよな。でも、血縁がないからな」
「私、エイトのにおいすきだよ」
「はぁ? 何言ってんだよ? 男のにおいなんていいもんじゃないぞ」
「でも、嫌な臭いじゃないの。エイトのTシャツのにおいかがせてよ」
「だめっ。お父さんはそんな不謹慎なこと許しません」
「ケチ!!」
「私の部屋にも今度来てよ。きっと私のにおいがするから」
「俺はにおいフェチじゃねーし」
よく見ると、エイトの顔が真っ赤になっている。結構うぶ? からかうとなんだかおもしろい。