♢エイトのプレゼント
店を閉めると、深夜にエイトと樹が咲ちゃんのお父さんのことで動き始めた。半妖ではない私が関わってはいけない案件なので、何も手助けすることはできない。エイトは夜も漫画家の仕事をしているか、半妖として仕事をしているので、滅多に家でゆっくりしていることはない。
そんな彼は自分の生活に満足しているのだろうか。不満がないのだろうか。売れっ子漫画家の仕事以外に人助けをするなんてお人好しだ。半妖であれば、体力も普通の成人男性よりもあるだろうし、睡眠もたくさんとる必要はないと聞いた。でも、過労で彼の寿命が短くなったり、体調を崩してしまったら、唯一の家族である私は心が痛む。いつの間にか少しずつ存在が大きくなっているのは確かだった。いつもそこに居る人がいなくなる恐怖は誰よりも知っている。だからこそ、無理はしないでほしかった。
エイトはにこりと笑うと闇夜に消えた。どうやら半妖の力で居場所を突き止めたようだ。会えなくてもこの世のどこかに家族が生きているのは嬉しい出来事だ。私の両親は二人ともこの世のどこにもいないのだから。
エイトと樹は二人で咲のお父さんの居場所を突き止めた。お父さんは県外にいることが判明した。半妖の力で県外に行くことはあっという間にできる。普通に歩くと、道ができ、高速移動が可能だ。その道を縁道《えんどう》という。縁のある人をつなぐという縁道には光が差し込み依頼人の探す人へと導く。それは、現実では考えられないことだが、何万キロ離れていようと、たどり着くことが可能だ。
「清野誠さんですか」
和装をしたエイトたちは清野父の元へ直接伺う。清野さんは工事現場で警備員の仕事をしていた。作業着姿の清野さんは日に焼けており、筋肉はついていたが顔色はあまりよくない印象だった。名前を呼ばれ、少し驚いた顔をした清野さんは警戒する様子でエイトと樹を見つめる。ちょうど仕事が終わる時間だったので、立ち話をする。
「あなたたちは誰ですか?」
「定食屋を営む水瀬と言います。最近、清野咲さんが客として店に来て、お父さんと一緒に住みたいと言っていました。あなたは咲さんのお父さんですね」
「でも、なぜ居場所がわかったのですか?」
「我々は特別な力があります。だから、探し人の居場所を突き止めることが可能なのです」
何を言っているのかわからないといった様子の清野。
「咲は怒っているでしょう。母親と二人で仲良く生きていってほしいです。家出の場合は一方的に離婚も可能ですから、もう離婚しているはずです」
「離婚はしていませんよ。今も清野姓です。奥さんは病気で寝ているそうです。咲ちゃんはお母さんとうまくいっていません」
「そんな……。昔は母と娘はとてもなかよしでした。むしろ私が邪魔でした」
「お母さんのヒステリーがひどいそうです。そして、心の病になったお母さんは寝てばかりでお金がないし、おいしい食事にもありつけない。だから、我々が主催する子ども食堂に来たのです」
すると清野は重い口を開いた。
「実は、借金を抱えてしまって、離婚を考えました。しかし、妻は離婚はしないと言ってね。法律で、家出を3年した場合、妻が離婚を申し出れば離婚が成立すると聞きました。だから、私は存在を消しました。妻はしっかりしていたし、一人で子育ても仕事もやっていける人間です。借金を家族に迷惑かけないために縁を切って、見知らぬ街で働き始めたのです」
「だから、ずっと連絡していないのですか」
「居場所も教えておりません」
「今でも二人は待っていますよ」
「もうすぐ借金の返済が終わります。すっかり離婚が成立していて二人は幸せになっていると思っていました」
「あなたに捨てられたと思った奥さんは心の病気になり、育児も家事も仕事もできていません。娘さんはお父さんと住みたいと言っています」
「勝手に家出をしたのに私が戻ってもいいのでしょうか」
「いいと思いますよ。たった一人の夫であり父親なのですから」
「仕事がひと段落したら会いに行きたいと思います。借金もあと少しですし」
「今すぐ、会いに行ってほしいんですけどね」
「でも、電車代もばかになりませんし。明日も仕事です」
「俺たちの力を使えば、あっという間に会えますがね」
「どういう意味ですか?」
「俺たちは半妖怪。つまり、普通の人間にできないことができるってことですよ。実際ものの数分であの町から来たのですからね」
「数分?」
驚いた清野は開いた口がふさがらない。
「実際にない道を通ると早いんです。人と人との縁を結ぶ縁道っていうのがあるんです。光を伝っていくと道が開くんですよ」
「縁道?」
「まぁいいから、つかまってください。僕たちは怪しいものじゃありません。あなたの町の定食屋のオーナーと店長です」
樹が促す。
「はぁ」
きつねにつままれたような顔をした清野が不思議な顔をして首をかしげたが、強引に腕をつかんで連れていく。すると、道がない場所に光がともる。これが縁道だ。縁の糸をたどって進む。半妖の二人が空を飛ぶように移動するので、清野は飛ばされないように必死につかまる。
気づくと、清野が昔住んでいたアパートの前に着いた。
「本当に、私が住んでいたアパートじゃないか」
清野は驚き立ちつくす。
「まずは会って、説明するんだな」
エイトが促す。
「殴られるかもしれない」
若干顔がこわばる清野。
「でも、それ相応のことを勝手になさったんですよね?」
樹がにこやかな顔でたしなめる。
「どうせ縁を切ろうと思っていたんだ。つながっていただけ儲けもんだろ」
エイトがあと一歩を踏み出す言葉をかけた。
勇気を持ってドアノブに手をかけ、玄関に入る。
「……ただいま」
「お父さん?」
驚いた顔の咲。
「あなた? どこにいっていたの?」
妻も驚いている。
「実は、借金があって遠くの町で働いていたんだ。もうすぐ借金は返すことができそうだ。そうしたら、またここで一緒に暮らしてもかまわないかな」
「当然だよ」
咲はすかさず返事をする。
お母さんは泣いている様子だ。
「とっくに離婚されていると思っていたよ。借金の迷惑をかけたくないから縁を切ったんだ。明日も仕事ですぐ帰らなければいけない。あと、これが連絡先の電話番号と住所だ」
「こんなに遠くから来たの?」
「不思議な定食屋の二人が送ってくれたから数分で到着したよ。これからまた送ってもらうから外で待ってもらっているんだ」
「水瀬エイト先生ね? 有名な漫画家なのよ」
「只者ではないと思ったが有名な漫画家先生か」
どこかその話に納得した様子の父親は少しばかりのお金を財布から抜いて咲に手渡す。
「少しばかりだけど、このお金で食べ物でも買ってくれ。あと一か月ほどしたらここへ戻るから。父さんは帰るぞ」
「必ず帰ってきてね」
「漫画家先生に誓って帰って来るよ。じゃあお母さんと仲良くしてくれ」
そう言うと、清野はエイトたちと元の町へ戻っていった。そんな不思議なできごとは魔法のような現象を咲に与えた。お金をもらってその月は食べることに不自由をしなくなったし、余裕ができた咲は彩太とのお付き合いの申し出を受け入れたらしい。母親の体調も良くなって家庭の雰囲気が良くなったというのは幸運だ。
その後、お父さんと三人で暮らし始めた咲は、三人で定食屋にやってきた。そして、お礼がてら客として食事をしていった。
「サンタクロースみたいな素敵な贈り物をありがとう」
咲はお礼をしても、し尽くせないといった様子だ。
エイトは終始笑顔で、死神というより生きるための神として存在意義が見いだせていけたらいいのにと私は感じていた。
店を閉めると、深夜にエイトと樹が咲ちゃんのお父さんのことで動き始めた。半妖ではない私が関わってはいけない案件なので、何も手助けすることはできない。エイトは夜も漫画家の仕事をしているか、半妖として仕事をしているので、滅多に家でゆっくりしていることはない。
そんな彼は自分の生活に満足しているのだろうか。不満がないのだろうか。売れっ子漫画家の仕事以外に人助けをするなんてお人好しだ。半妖であれば、体力も普通の成人男性よりもあるだろうし、睡眠もたくさんとる必要はないと聞いた。でも、過労で彼の寿命が短くなったり、体調を崩してしまったら、唯一の家族である私は心が痛む。いつの間にか少しずつ存在が大きくなっているのは確かだった。いつもそこに居る人がいなくなる恐怖は誰よりも知っている。だからこそ、無理はしないでほしかった。
エイトはにこりと笑うと闇夜に消えた。どうやら半妖の力で居場所を突き止めたようだ。会えなくてもこの世のどこかに家族が生きているのは嬉しい出来事だ。私の両親は二人ともこの世のどこにもいないのだから。
エイトと樹は二人で咲のお父さんの居場所を突き止めた。お父さんは県外にいることが判明した。半妖の力で県外に行くことはあっという間にできる。普通に歩くと、道ができ、高速移動が可能だ。その道を縁道《えんどう》という。縁のある人をつなぐという縁道には光が差し込み依頼人の探す人へと導く。それは、現実では考えられないことだが、何万キロ離れていようと、たどり着くことが可能だ。
「清野誠さんですか」
和装をしたエイトたちは清野父の元へ直接伺う。清野さんは工事現場で警備員の仕事をしていた。作業着姿の清野さんは日に焼けており、筋肉はついていたが顔色はあまりよくない印象だった。名前を呼ばれ、少し驚いた顔をした清野さんは警戒する様子でエイトと樹を見つめる。ちょうど仕事が終わる時間だったので、立ち話をする。
「あなたたちは誰ですか?」
「定食屋を営む水瀬と言います。最近、清野咲さんが客として店に来て、お父さんと一緒に住みたいと言っていました。あなたは咲さんのお父さんですね」
「でも、なぜ居場所がわかったのですか?」
「我々は特別な力があります。だから、探し人の居場所を突き止めることが可能なのです」
何を言っているのかわからないといった様子の清野。
「咲は怒っているでしょう。母親と二人で仲良く生きていってほしいです。家出の場合は一方的に離婚も可能ですから、もう離婚しているはずです」
「離婚はしていませんよ。今も清野姓です。奥さんは病気で寝ているそうです。咲ちゃんはお母さんとうまくいっていません」
「そんな……。昔は母と娘はとてもなかよしでした。むしろ私が邪魔でした」
「お母さんのヒステリーがひどいそうです。そして、心の病になったお母さんは寝てばかりでお金がないし、おいしい食事にもありつけない。だから、我々が主催する子ども食堂に来たのです」
すると清野は重い口を開いた。
「実は、借金を抱えてしまって、離婚を考えました。しかし、妻は離婚はしないと言ってね。法律で、家出を3年した場合、妻が離婚を申し出れば離婚が成立すると聞きました。だから、私は存在を消しました。妻はしっかりしていたし、一人で子育ても仕事もやっていける人間です。借金を家族に迷惑かけないために縁を切って、見知らぬ街で働き始めたのです」
「だから、ずっと連絡していないのですか」
「居場所も教えておりません」
「今でも二人は待っていますよ」
「もうすぐ借金の返済が終わります。すっかり離婚が成立していて二人は幸せになっていると思っていました」
「あなたに捨てられたと思った奥さんは心の病気になり、育児も家事も仕事もできていません。娘さんはお父さんと住みたいと言っています」
「勝手に家出をしたのに私が戻ってもいいのでしょうか」
「いいと思いますよ。たった一人の夫であり父親なのですから」
「仕事がひと段落したら会いに行きたいと思います。借金もあと少しですし」
「今すぐ、会いに行ってほしいんですけどね」
「でも、電車代もばかになりませんし。明日も仕事です」
「俺たちの力を使えば、あっという間に会えますがね」
「どういう意味ですか?」
「俺たちは半妖怪。つまり、普通の人間にできないことができるってことですよ。実際ものの数分であの町から来たのですからね」
「数分?」
驚いた清野は開いた口がふさがらない。
「実際にない道を通ると早いんです。人と人との縁を結ぶ縁道っていうのがあるんです。光を伝っていくと道が開くんですよ」
「縁道?」
「まぁいいから、つかまってください。僕たちは怪しいものじゃありません。あなたの町の定食屋のオーナーと店長です」
樹が促す。
「はぁ」
きつねにつままれたような顔をした清野が不思議な顔をして首をかしげたが、強引に腕をつかんで連れていく。すると、道がない場所に光がともる。これが縁道だ。縁の糸をたどって進む。半妖の二人が空を飛ぶように移動するので、清野は飛ばされないように必死につかまる。
気づくと、清野が昔住んでいたアパートの前に着いた。
「本当に、私が住んでいたアパートじゃないか」
清野は驚き立ちつくす。
「まずは会って、説明するんだな」
エイトが促す。
「殴られるかもしれない」
若干顔がこわばる清野。
「でも、それ相応のことを勝手になさったんですよね?」
樹がにこやかな顔でたしなめる。
「どうせ縁を切ろうと思っていたんだ。つながっていただけ儲けもんだろ」
エイトがあと一歩を踏み出す言葉をかけた。
勇気を持ってドアノブに手をかけ、玄関に入る。
「……ただいま」
「お父さん?」
驚いた顔の咲。
「あなた? どこにいっていたの?」
妻も驚いている。
「実は、借金があって遠くの町で働いていたんだ。もうすぐ借金は返すことができそうだ。そうしたら、またここで一緒に暮らしてもかまわないかな」
「当然だよ」
咲はすかさず返事をする。
お母さんは泣いている様子だ。
「とっくに離婚されていると思っていたよ。借金の迷惑をかけたくないから縁を切ったんだ。明日も仕事ですぐ帰らなければいけない。あと、これが連絡先の電話番号と住所だ」
「こんなに遠くから来たの?」
「不思議な定食屋の二人が送ってくれたから数分で到着したよ。これからまた送ってもらうから外で待ってもらっているんだ」
「水瀬エイト先生ね? 有名な漫画家なのよ」
「只者ではないと思ったが有名な漫画家先生か」
どこかその話に納得した様子の父親は少しばかりのお金を財布から抜いて咲に手渡す。
「少しばかりだけど、このお金で食べ物でも買ってくれ。あと一か月ほどしたらここへ戻るから。父さんは帰るぞ」
「必ず帰ってきてね」
「漫画家先生に誓って帰って来るよ。じゃあお母さんと仲良くしてくれ」
そう言うと、清野はエイトたちと元の町へ戻っていった。そんな不思議なできごとは魔法のような現象を咲に与えた。お金をもらってその月は食べることに不自由をしなくなったし、余裕ができた咲は彩太とのお付き合いの申し出を受け入れたらしい。母親の体調も良くなって家庭の雰囲気が良くなったというのは幸運だ。
その後、お父さんと三人で暮らし始めた咲は、三人で定食屋にやってきた。そして、お礼がてら客として食事をしていった。
「サンタクロースみたいな素敵な贈り物をありがとう」
咲はお礼をしても、し尽くせないといった様子だ。
エイトは終始笑顔で、死神というより生きるための神として存在意義が見いだせていけたらいいのにと私は感じていた。