♢【レモンサワーと牡蠣鍋】
「レモンサワー、1杯ください」
さわやかな顔立ちの男性がレモンサワーを注文してきた。はじめてやってきたお客様だ。
「1人前でも牡蠣鍋って注文できますか?」
「大丈夫っすよ」
サイコさんが笑顔で対応する。
「このお通しの漬物めちゃくちゃうまいですね。実は、鍋料理、死んだ彼女が好きだったんですよ。よく二人で鍋をつついたなぁ……」
「もしかして、彼女の仇を討ちたくてここにきたとかぁ?」
サイコさんがさらっと聞く。
「本気にしていなかったんだけど、友達づてでそういう居酒屋があるって聞いたんだよね。まさか本当じゃないでしょ?」
「仇討ちは当店のメニューのひとつとなっております」
樹さんが穏やかな口調で本当のことを説明する。
「彼女を惨殺した通り魔を殺してくれるってことですか?」
男性はレモンサワーを口にするたびに、語調が強くなる。こういった人はお酒が弱いタイプに多く、飲めば飲むほど気が大きくなるタイプだ。下手するとお酒に呑まれてしまうタイプだということをたくさんのお客様を見ているとだんだんわかってきた。私もお客様を見極める目が育ったということだろうか。目が肥えたというのかもしれない。一見気が弱そうなおとなしそうな人ほど、結構すごいことを考えていたりする。これは、今までの経験だ。
「通り魔に惨殺された? それは、黙っちゃおけないねぇ」
サイコさんが怒りに満ちた表情をあらわにした。
私も今日は牡蠣鍋を食しており、レモンサワーのお客様と同じものだった。
「仕事の帰り道に刃物を持った男がめった刺しにしたんだよ」
「そりゃあ、魂もうかばれないねぇ」
「彼女は苦しみながら殺された。俺は、彼女と結婚するつもりだったから家族を殺されたも同じだ。何もしていない人を刺して刑務所でのうのうと生きているなんて許せないだろ?」
「でも、うちでは全殺しはやっていませんよ。依頼主に半分寿命をいただいて、仇を討つ相手の寿命も半分だけいただく。そして、仇を討つ相手にはそれ相応の生き地獄を味わっていただくんです」
「今は裁判であんな奴を庇う弁護士に反吐が出ますよ。奴は生きて罪を償うのですか」
「寿命が半分になるということは、死刑囚ならば、死刑になるという可能性は高いかもしれませんね」
「生き地獄……悪くないですね」
男の目が酒のせいか据わった感じがする。憎しみの深さが感じられる。
「それにしても、この牡蠣鍋、じんわりくるなぁ。体の芯からあったまるような感じだ。このじんわりした感じ、アルコールのせいかもしれないけれど。奴のことは、じんわり痛めつけてください」
一見優しそうな男は、内なる秘めた凶暴性を時々垣間見せる。それは、本来持ち合わせた凶暴性で、きっと何かの拍子に見せるものだろう。恨みを持つと、憎しみの部分をより強調させて見えてしまうのが人間だということも最近よくわかってきた。自分は違うと思っても、実はとても凶暴で深い怨念を持つことだってあるのだろう。それは、何か大切なものを傷つけられたとか失ったというときに現れるものだと思う。
「牡蠣鍋かぁ。一人だとなかなか鍋を作ろうって思わないんですよね。でも、牡蠣はやっぱりうまいなぁ」
男はじっくりひとくちひとくちを味わっているようだった。それは、深い悲しみにもう一度じっくり向き合いながら仇討ちに向かうかのようだ。まるで、戦場に向かう戦士のような気迫が男の背中から感じられる。
「レモンサワーってすっぱいけれど、あと味がすっきりして好きだと彼女が言っていました。彼女の分も俺が味わっているんです」
酔っているのかやたら饒舌な男は、まるで彼女と飲んでいるかのような様子を見せる。きっと彼の中では二人で飲んでいるのだろう。
「いらっしゃい」
エイトが現れて、客の頭から光をもらう。あれは、寿命をもらう行為で死神との契約を交わす光らしい。この人は一体何年分の寿命を死神にあげたのだろうか? それは寿命をあげた本人にもわからないし、私たちにもわからない。
「レモンサワー、1杯ください」
さわやかな顔立ちの男性がレモンサワーを注文してきた。はじめてやってきたお客様だ。
「1人前でも牡蠣鍋って注文できますか?」
「大丈夫っすよ」
サイコさんが笑顔で対応する。
「このお通しの漬物めちゃくちゃうまいですね。実は、鍋料理、死んだ彼女が好きだったんですよ。よく二人で鍋をつついたなぁ……」
「もしかして、彼女の仇を討ちたくてここにきたとかぁ?」
サイコさんがさらっと聞く。
「本気にしていなかったんだけど、友達づてでそういう居酒屋があるって聞いたんだよね。まさか本当じゃないでしょ?」
「仇討ちは当店のメニューのひとつとなっております」
樹さんが穏やかな口調で本当のことを説明する。
「彼女を惨殺した通り魔を殺してくれるってことですか?」
男性はレモンサワーを口にするたびに、語調が強くなる。こういった人はお酒が弱いタイプに多く、飲めば飲むほど気が大きくなるタイプだ。下手するとお酒に呑まれてしまうタイプだということをたくさんのお客様を見ているとだんだんわかってきた。私もお客様を見極める目が育ったということだろうか。目が肥えたというのかもしれない。一見気が弱そうなおとなしそうな人ほど、結構すごいことを考えていたりする。これは、今までの経験だ。
「通り魔に惨殺された? それは、黙っちゃおけないねぇ」
サイコさんが怒りに満ちた表情をあらわにした。
私も今日は牡蠣鍋を食しており、レモンサワーのお客様と同じものだった。
「仕事の帰り道に刃物を持った男がめった刺しにしたんだよ」
「そりゃあ、魂もうかばれないねぇ」
「彼女は苦しみながら殺された。俺は、彼女と結婚するつもりだったから家族を殺されたも同じだ。何もしていない人を刺して刑務所でのうのうと生きているなんて許せないだろ?」
「でも、うちでは全殺しはやっていませんよ。依頼主に半分寿命をいただいて、仇を討つ相手の寿命も半分だけいただく。そして、仇を討つ相手にはそれ相応の生き地獄を味わっていただくんです」
「今は裁判であんな奴を庇う弁護士に反吐が出ますよ。奴は生きて罪を償うのですか」
「寿命が半分になるということは、死刑囚ならば、死刑になるという可能性は高いかもしれませんね」
「生き地獄……悪くないですね」
男の目が酒のせいか据わった感じがする。憎しみの深さが感じられる。
「それにしても、この牡蠣鍋、じんわりくるなぁ。体の芯からあったまるような感じだ。このじんわりした感じ、アルコールのせいかもしれないけれど。奴のことは、じんわり痛めつけてください」
一見優しそうな男は、内なる秘めた凶暴性を時々垣間見せる。それは、本来持ち合わせた凶暴性で、きっと何かの拍子に見せるものだろう。恨みを持つと、憎しみの部分をより強調させて見えてしまうのが人間だということも最近よくわかってきた。自分は違うと思っても、実はとても凶暴で深い怨念を持つことだってあるのだろう。それは、何か大切なものを傷つけられたとか失ったというときに現れるものだと思う。
「牡蠣鍋かぁ。一人だとなかなか鍋を作ろうって思わないんですよね。でも、牡蠣はやっぱりうまいなぁ」
男はじっくりひとくちひとくちを味わっているようだった。それは、深い悲しみにもう一度じっくり向き合いながら仇討ちに向かうかのようだ。まるで、戦場に向かう戦士のような気迫が男の背中から感じられる。
「レモンサワーってすっぱいけれど、あと味がすっきりして好きだと彼女が言っていました。彼女の分も俺が味わっているんです」
酔っているのかやたら饒舌な男は、まるで彼女と飲んでいるかのような様子を見せる。きっと彼の中では二人で飲んでいるのだろう。
「いらっしゃい」
エイトが現れて、客の頭から光をもらう。あれは、寿命をもらう行為で死神との契約を交わす光らしい。この人は一体何年分の寿命を死神にあげたのだろうか? それは寿命をあげた本人にもわからないし、私たちにもわからない。