♢デートと門限
「今日はデートか?」
「まだつきあっていないけどね」
「どこ行くんだ?」
「なによ、過干渉の親みたい」
「保護者だから聞いてんだよ。ラブホテルとか行くんじゃないぞ」
「行かないし。ってエイトってそういうホテルに入ったことあるの?」
「あるけど」
私はその一言に、一瞬どきっとする。でも、それを悟られないように隠す。
「漫画のネタの取材でな。なんせ、プライベートで入ったこともないから、どうにもわからなくてな」
「この歳で……」
私はにんまり笑う。我が家の朝食はこんな感じだ。さわやかさのかけらもない。
「うるせー」
否定しないってことは、やっぱり経験がないのね。私は、少しうれしくなった。誰かとエイトがそういった行為をしていた事実があると正直辛い気がする。何故そんな気持ちになるのかもわからなかったけれど。私は食器をかたづけて、歯磨きをして着替えて出発する。
「んで、今日はどこに行くんだ?」
少し心配そうなエイト。探りを入れて来る。
「喫茶店とか映画とか雑貨屋めぐりとか、そんな感じだよ」
「その服、気合入ってるな。俺の前では、いつも気合の入らない部屋着のスウェットとかジャージなのにな。スカート短すぎないか? 肩もこんなに開いた服なんて誘惑してるみたいじゃねーか」
「誘惑じゃなくって流行のデザインなの。エイトだって、普段仕事着はジャージで寝るときはスウェットでしょ」
「おめーの前でしゃれ込む必要ゼロだしな。あんまり遅くなるんじゃねーぞ」
「いってきまーす」
私は履きなれないヒールのあるかわいい靴を選ぶ。
そういえば、エイトの前でほとんどおしゃれってしていないかも。
私は壱弥君と一緒に出掛けることは初めてだった。映画をみて、ランチデートとなった。映画は会話をすることなく静かに鑑賞していればいい。ただ、異性と一緒に見ているという緊張感だけが特別な感じだったが、気が合わない人と見ても無難なのは映画なのかもしれない。壱弥君は言い出しにくそうな様子で提案をしてくる。
「今日、おまえのうちにいってもいいか?」
「もしかしてエイトに会いたいの?」
「仕事場とか見ることってできないのかな?」
「無理だよ。私も入れてもらえないし」
残念顔の壱弥君。あからさまに顔に出る人だな。
「うちにくるだけならばいいけど」
「まじか?」
顔がぱあっと明るくなる。もしかして、エイト目あてなの? 少し疑う私。
「ただいまぁ」
「おかえり」
すぐに帰宅すると、仕事場からエイトが出て来る。仕事中はあまり出てこないのに珍しい。
「こんにちは、先生」
壱弥君は嬉しそうだ。
「壱弥君、お茶でも入れるから、そこ座れよ」
「まじですか? 俺、エイト先生にお茶入れてもらえるなんて感激です」
「んで、デートはどうだった?」
「まぁ、普通だけど」
「これから、二人きりで部屋でいちゃつくのは禁止な。リビングなら別に構わないけど、俺もここで休憩するから、気にせずにいちゃつけ」
ばっちり監視体制に入る。こんな状況でいちゃつける人はいないだろう。エイトの睨みはその辺の人なんかよりずっと鋭い。
「ちょっと、エイト。ここでいちゃつくとかありえないし。私たちまだつきあってもいないんだよ」
「別に、俺は気にしないけど、保護者として警告だけは……なんてな」
そんなことを言いながらお茶を飲む。そして、雑誌を読み始めるエイト。本当は監視目的なのだろう。
「先生、今日は落ち着きがなかったんですよね」
愛沢さんが呆れた顔をして私に話しかける。
「デートのことが気になって仕事が手につかないって感じでしたね」
鬼山さんも困った顔で私に話しかける。
「先生って父親みたいに大事な娘を取られたくないとかそういうタイプですかね、本当に子煩悩だなー」
壱弥君は惚れ惚れしながら、エイトのリラックスタイムを撮影する。
「何撮ってるんだよ?」
「先生のことが大好きすぎて、写真がほしくて……すいません」
「もう撮るなよ。っておまえナナより俺のこと好きじゃないのか?」
「そうかもしれません。正直先生のことをナナさんに聞きたいというアニメオタク根性が高じて、ナナさんと仲良くなったので。もちろん、ナナさんのことも好きですが、エイト先生の方がもっと好きで……」
「なんだよ、好きって男に言われると鳥肌が立つぞ。俺はBLなんぞに興味はない」
エイトは迷惑顔だ。
「俺よりナナのことが好きじゃないならば、交際は認めないぞ」
「先生の言う通りです。僕は交際を望みません。普通に友達としてナナさんとは仲良くしていきたいです。そして、先生から創作秘話とかいっぱい聞きたいのです」
それを聞いたエイトは大きなため息をつき、鋭い眼光で睨みつけた。
「うちのナナはアニメオタクの便利なツールじゃないから、帰れ」
そう吐き捨てると、仕事部屋に戻った。
「ごめん、ナナちゃん。アシスタントの先生、みなさんにご迷惑かけてしまいました。これからもクラスメイトとしてよろしく」
エイトの睨みが効いたのか、そう言って、壱弥君はすまなそうに帰宅した。
「愛沢さん、最近おしゃれでかわいいから、愛沢さんにメイクやファッションを教えてもらおうかな」
「いいよ。私はナナちゃんがうらやましいけど」
「なんでですか? 今、壱弥君にフラれたんですよ」
「先生にあんなに愛されているからよ。ナナちゃんがデートしている間、時計ばかり気にして、いつもより執筆速度も落ちていたし、ミスも多かったのよ」
「いわゆる過干渉とか過保護なタイプなんですよね。エイトって昭和の頑固おやじみたい」
「ちょっと違うような気がするから、私、先生のこと諦めないとなぁって。最近は出会いの機会があれば積極的に出向くようにしているのよ」
「どういうことですか?」
「きっとそのうちわかるわよ」
愛沢さんは優しく微笑んだ。
「今日はデートか?」
「まだつきあっていないけどね」
「どこ行くんだ?」
「なによ、過干渉の親みたい」
「保護者だから聞いてんだよ。ラブホテルとか行くんじゃないぞ」
「行かないし。ってエイトってそういうホテルに入ったことあるの?」
「あるけど」
私はその一言に、一瞬どきっとする。でも、それを悟られないように隠す。
「漫画のネタの取材でな。なんせ、プライベートで入ったこともないから、どうにもわからなくてな」
「この歳で……」
私はにんまり笑う。我が家の朝食はこんな感じだ。さわやかさのかけらもない。
「うるせー」
否定しないってことは、やっぱり経験がないのね。私は、少しうれしくなった。誰かとエイトがそういった行為をしていた事実があると正直辛い気がする。何故そんな気持ちになるのかもわからなかったけれど。私は食器をかたづけて、歯磨きをして着替えて出発する。
「んで、今日はどこに行くんだ?」
少し心配そうなエイト。探りを入れて来る。
「喫茶店とか映画とか雑貨屋めぐりとか、そんな感じだよ」
「その服、気合入ってるな。俺の前では、いつも気合の入らない部屋着のスウェットとかジャージなのにな。スカート短すぎないか? 肩もこんなに開いた服なんて誘惑してるみたいじゃねーか」
「誘惑じゃなくって流行のデザインなの。エイトだって、普段仕事着はジャージで寝るときはスウェットでしょ」
「おめーの前でしゃれ込む必要ゼロだしな。あんまり遅くなるんじゃねーぞ」
「いってきまーす」
私は履きなれないヒールのあるかわいい靴を選ぶ。
そういえば、エイトの前でほとんどおしゃれってしていないかも。
私は壱弥君と一緒に出掛けることは初めてだった。映画をみて、ランチデートとなった。映画は会話をすることなく静かに鑑賞していればいい。ただ、異性と一緒に見ているという緊張感だけが特別な感じだったが、気が合わない人と見ても無難なのは映画なのかもしれない。壱弥君は言い出しにくそうな様子で提案をしてくる。
「今日、おまえのうちにいってもいいか?」
「もしかしてエイトに会いたいの?」
「仕事場とか見ることってできないのかな?」
「無理だよ。私も入れてもらえないし」
残念顔の壱弥君。あからさまに顔に出る人だな。
「うちにくるだけならばいいけど」
「まじか?」
顔がぱあっと明るくなる。もしかして、エイト目あてなの? 少し疑う私。
「ただいまぁ」
「おかえり」
すぐに帰宅すると、仕事場からエイトが出て来る。仕事中はあまり出てこないのに珍しい。
「こんにちは、先生」
壱弥君は嬉しそうだ。
「壱弥君、お茶でも入れるから、そこ座れよ」
「まじですか? 俺、エイト先生にお茶入れてもらえるなんて感激です」
「んで、デートはどうだった?」
「まぁ、普通だけど」
「これから、二人きりで部屋でいちゃつくのは禁止な。リビングなら別に構わないけど、俺もここで休憩するから、気にせずにいちゃつけ」
ばっちり監視体制に入る。こんな状況でいちゃつける人はいないだろう。エイトの睨みはその辺の人なんかよりずっと鋭い。
「ちょっと、エイト。ここでいちゃつくとかありえないし。私たちまだつきあってもいないんだよ」
「別に、俺は気にしないけど、保護者として警告だけは……なんてな」
そんなことを言いながらお茶を飲む。そして、雑誌を読み始めるエイト。本当は監視目的なのだろう。
「先生、今日は落ち着きがなかったんですよね」
愛沢さんが呆れた顔をして私に話しかける。
「デートのことが気になって仕事が手につかないって感じでしたね」
鬼山さんも困った顔で私に話しかける。
「先生って父親みたいに大事な娘を取られたくないとかそういうタイプですかね、本当に子煩悩だなー」
壱弥君は惚れ惚れしながら、エイトのリラックスタイムを撮影する。
「何撮ってるんだよ?」
「先生のことが大好きすぎて、写真がほしくて……すいません」
「もう撮るなよ。っておまえナナより俺のこと好きじゃないのか?」
「そうかもしれません。正直先生のことをナナさんに聞きたいというアニメオタク根性が高じて、ナナさんと仲良くなったので。もちろん、ナナさんのことも好きですが、エイト先生の方がもっと好きで……」
「なんだよ、好きって男に言われると鳥肌が立つぞ。俺はBLなんぞに興味はない」
エイトは迷惑顔だ。
「俺よりナナのことが好きじゃないならば、交際は認めないぞ」
「先生の言う通りです。僕は交際を望みません。普通に友達としてナナさんとは仲良くしていきたいです。そして、先生から創作秘話とかいっぱい聞きたいのです」
それを聞いたエイトは大きなため息をつき、鋭い眼光で睨みつけた。
「うちのナナはアニメオタクの便利なツールじゃないから、帰れ」
そう吐き捨てると、仕事部屋に戻った。
「ごめん、ナナちゃん。アシスタントの先生、みなさんにご迷惑かけてしまいました。これからもクラスメイトとしてよろしく」
エイトの睨みが効いたのか、そう言って、壱弥君はすまなそうに帰宅した。
「愛沢さん、最近おしゃれでかわいいから、愛沢さんにメイクやファッションを教えてもらおうかな」
「いいよ。私はナナちゃんがうらやましいけど」
「なんでですか? 今、壱弥君にフラれたんですよ」
「先生にあんなに愛されているからよ。ナナちゃんがデートしている間、時計ばかり気にして、いつもより執筆速度も落ちていたし、ミスも多かったのよ」
「いわゆる過干渉とか過保護なタイプなんですよね。エイトって昭和の頑固おやじみたい」
「ちょっと違うような気がするから、私、先生のこと諦めないとなぁって。最近は出会いの機会があれば積極的に出向くようにしているのよ」
「どういうことですか?」
「きっとそのうちわかるわよ」
愛沢さんは優しく微笑んだ。