♢鬼の制裁


 閉店後、闇夜の中に半妖は仕事をするために姿を消す。その瞬間から心を鬼にした仕事が始まる。

「本人が願っているのかわからないが、遺族が願うことっていうのは結構あるんだよな。死人に口なしだから、死者の気持ちは生きている人間にはわからないがな。鬼山、行こうか」

「はい、OKです」
 
 あんなにひ弱そうな鬼山ですら、半妖というだけあって、鬼の姿になると別人のような強さになる。

「鬼の鬼山だから、今日は暴れすぎるなよ」

 一見ひ弱な見た目だけでは計り知れない恐ろしさを能力を鬼山は隠し持っていた。

 夜も深まったころ、体罰教師が残業を終えて帰宅する。彼は体罰の事件は事故として片づけられ、平穏な生活を送っていた。申し訳ないとかそういった気持ちはあるようには感じられない。実際彼は、今も体罰まがいな指導をしているのだから。全く反省の色がない。

「あれが体罰教師ですかね」

 昼間とはすっかり雰囲気が違う鬼山は鬼の姿に変化していた。鬼の血を引く男。だから、細いけれど怪力で、普通の人間などには簡単に勝つことができる。それは鬼の怪力を持ち合わせた男なのだ。普段と変化後では180度見た目が変わるという男、鬼山は牙をむき出しにし鉄の棒を振り回す。人間には持てないような重いものを軽々持つことができるというのが半分鬼の特徴だ。

「あなたの寿命を半分いただきにきましたよ」

 鬼山が楽しそうにいたぶりだす。

「どうしてそんなことをする?」

 体罰教師はいぶかしげな表情で質問する。

「事故で片付いてラッキーとか思ってたりしねーよな」

 銀色に輝くエイトが死神の光を放つ。

「鬼でも体罰で殺さねーって言うのに、ずいぶんな人間だよな、あんた本当に人間か?」

 金棒を振り回して鬼となった鬼山は容赦しない。全身打撲で何かに踏みつけられたかのような怪我を負っていたらしい。通りがかりの何者かとのケンカや襲撃ではないかというふうにニュースで取り上げられることになる。

「こんなにケガをしても、人間って死なないもんだな」

 死神であるエイトは銀色の光を放ち「制裁!!!!」と唱える。すると、魂が半分だけ男の体から出ていく。残りの寿命は何年になったのだろうか。

 その後、体罰教師は妻や子供と別居することになり、孤立を余儀なくされる。孤立させるために、チーム半妖が細工をしたのかもしれないが、それは社会的に知られることはない。そして、その後男は退職したという噂は耳に入ったが男がどうなったのかは誰も知らないようだ。この世にいるのかいないのか、それすらもわからない。誰とも接することのない、そんな人生を送ったのだろう。

 しかし、怨みを晴らしたとしても依頼人の心が完全に晴れるというわけでもない。完全にまっさらな気持ちにはなれないというのが人間の心理だ。