♢【簡単チーズとピーマンと鶏肉のレンジ料理】
とても驚くべき事実に遭遇した。予想外の展開に言葉がでなかった。予想すらしていなかったので、完全にノーマークだったという感じだ。
狐娘の愛沢さんがエイトと抱き合っていたのだ。二人がそんな関係だとは思わなかったし、エイトの好みはどちらかというとサイコさんのようなギャル系だと思っていたので、まさかの地味女子の愛沢さんだとは思わなかったのだ。これは、個人の意見なので、地味な女性が好きだという人もいるだろう。
抱き合うというか顔が近い、もしかして、キスしてた? 私の心は動揺する。私は気づかれないように隠れながら観察する。
「まつげが頬についてるぞ。ちょっと目をつぶって。涙を拭いて、元気出せ。次の新人賞にまた向けて描くしかないって」
「ありがとうございます。落ち込んでいたので、プロの先生に励まされるとうれしいです」
新人賞に出して落ちて、慰めていただけ? まつげを取っていただけ? よくある勘違いのパターンに遭遇しちゃったのかな? しかし、それは半分は勘違いではないという事実に直面した。
「私、先生のこと、好きです」
愛沢さんのストレートな告白!! 私には無理な芸当だ。
「俺も好きだぞ、愛沢」
まさかの両想い? 嘘? 私はその言動に凍ってしまう。
「好きというのは、恋愛として好きだと言っているのです」
愛沢さんが丁寧に説明を始める。エイトは鈍感だから、そういう男だ。
「恋愛? 俺のことを好きだというのか? でも、娘みたいなのがいるし……」
私のこと、邪魔ってことかな。エイトの新しい恋を邪魔しているみたい。
「でも、先生はまだ未婚で未入籍です。ナナちゃんは娘ではありませんし、戸籍上は血縁がありません」
エイトはしばらく黙って、言葉を選ぶ。
「俺、妻になる人を亡くしてまだ日が浅いし。気持ちはうれしいけど、いますぐ恋愛とかまだ考えていなくて……」
「じゃあ、先生を振り向かせるために好きになってもらいます。好きになったら付き合ってください」
「でも、俺らは漫画の仕事もあるだろ、そういった私情を持ち込むのはどうかと思うぞ」
「仕事と恋愛は別物です。私を意識してもらうために、私、おしゃれもがんばるし、化粧だってがんばります」
「でも、漫画描くのに化粧とかおしゃれは必要ないっていうか……」
「でも、エイト先生と一緒にいる時間はかわいい私でいたいのです」
「かわいいこというな。俺は、そんなに惚れっぽいほうじゃないし、今まで異性としておまえのことを意識したことはないんだよな」
はっきりとエイトは思ったことを述べる。
「これから、異性として意識してください。私は先生が結婚決まった時すごく泣きました。でも、独身である今、諦めがつきません」
「俺のどこがそんなにいいんだ? 鬼山とか樹だっていい男だろ」
「俺についてこいっていうところか……。半妖に仕事を与えるチームを作ってくれたのはエイト先生のおかげです。私一人で仇討ちの仕事なんてできなかったと思います。半妖は成人したらかたき討ちの仕事をしないとこの世界にいることができないということは幼少から聞いていました。感謝と魅力が好きな気持ちにつながったのです。先生の漫画のセンスも顔立ちも話し方も全部好きです」
なんて正直な女性だろう。私ならば絶対にそんなに好きなことを本人を目の前にして言葉にならない。それは、フラれることが辛いということもあるし、気持ちを伝えることが恥ずかしいということもある。
「わかった。お前の気持ちは受け止める。でも、このことで気まずいとか仕事に支障が出るのは困る」
「わかってます。私のこと、二香《にか》ってよんでください」
「にか……」
「だって、サイコさんだけ下の名前ってずるいですぅ」
珍しくかわいらしい女性らしい一面をのぞかせる愛沢さん。
「わかったよ、下の名前で呼ぶから」
「うれしいです。ずっと伝えられなくて胸にしまっていましたが、本人に伝えるとすっきりします。明日からもよろしくおねがいします」
そういうと、愛沢さんは帰宅した。私は盗み聞きしたのが申し訳なくて、息を殺して壁に隠れていたのだが、エイトは気づいていたらしい。半妖のリーダーは気配に敏感だから、隠れるのは無駄なのだろう。
「かくれているの知ってるぞ」
「ごめん、聞くつもりなかったんだけど、ちょうど鉢合わせてしまって」
「ったく仕方ないな。俺は、美佐子さん一筋だし、今のところ彼女作る気はないぞ」
「お母さんと私に遠慮して新しい恋愛ができないのは、まだ未婚で若いのに申し訳ないなって思う。もし、本当に好きな人が現れたら遠慮なく恋愛でも結婚でもしなさいよ」
「俺は、そんなに惚れっぽくないんだって」
「でも、好きになるのは理屈じゃないから、生きていればそういうことがあるかもしれないでしょ」
「わかったよ。遠慮はしない。でも、今はそんな気持ちにはなれないけどな」
本当に誠実な人なんだなぁと背の高いエイトを見上げる。
「実はさ、俺ってちゃんと付き合ったことないんだ。美佐子さんとはデートもしないままだったし、高校の時は、親が死んでアシスタントのバイトしながら受験勉強して、大学生の時にデビューしたから、遊んでる暇もなかったしな」
「その歳で? 女性経験もないとか?」
さりげなく気になっていたことを聞いてみる。もしかして、お母さんと……そんなことを考えるとなんだか辛くなる気持ちがあったから。母親の女の部分を見たくないという気持ちもあったと思う。
「悪かったな、経験なくて」
ほっとする一言だった。お母さんとも経験がないということは、お母さんの女性の部分を見なくて済むような気がした。娘としては母親は母親であってほしいのが本音だ。
「ナナ、おまえも彼氏ができても、鉄のパンツをはいてデートしろよ」
「なによそれ」
「男に気やすく体を見せたり触らせることは厳禁ってことだ。学生で妊娠とかありえないからな」
血がつながっていないからなのかもしれない。本当の父親ならば、こういった話は娘にはできないだろう。
「大丈夫よ。そんな交際はするつもりはないから。エイトのほうこそ、若い娘にムラッとしないでね」
絶対に実の父には言わないセリフかもしれない。
「俺、お前に対してはそういった目で一切見ることはないから、安心しろ」
何が安心しろよ? ある意味失礼すぎるし。
「風呂で裸になっているのを見たとしても何も感じないから大丈夫」
「だいたい、風呂で裸の姿見せないし」
「俺の裸を見ても、どきっとするなよ。結構腹筋われてるからさ」
「ないない、おじさんに興味はないから」
「おじさんじゃなくて、おにいさんだろ!!」
そんなことを言った後、少し間を開けてエイトが提案した。
「冷凍していたもので簡単に夜食でも作るか」
「またまた家事男子《カジダン》の腕の見せ所ってことね」
「時間あるときにまとめて冷凍保存していると、結構そのまま調理できたりして便利なんだよな」
「さすが、エイトの知恵袋!!」
私はおどけながらエイトを持ち上げる。
「おう、任しとけぃ!! 今日は鶏肉とピーマンのチーズ焼きだ。おつまみの一品に最高だ」
「鶏肉は冷凍していたの?」
「空気が入らないように冷凍して、下味をつけるとそのままレンジでチンで一品できるからな。下味は、簡単にすきやきの素だぜぃ」
冷蔵庫からピーマンを取り出して細く刻む。そして、冷凍していた鶏肉を解凍させて、ピザ用チーズをかけてレンジで温める。簡単に一品ができた。
「たしかに、醤油おおさじ1とか、計るのは面倒だから、味付けに便利だよね、すきやきの素かぁ」
「ちなみに、めんつゆも結構味付けには便利だぞ」
「たしかに、酒1、みりん1って初心者にはハードル高いよね」
「今日は死神業もないし、俺は、久々にビールでも飲んでくつろぐとするか」
「じゃあ、私はジュースでかんぱい」
エイトが作る一品料理は簡単だけれどおいしいので、私の胃袋は完全にエイトにつかまれているといっても過言ではない。それくらい、エイトと一緒にいる時間が増えるにしたがって、エイトの良さが見えているという事実が私の中にはあったと思う。
とても驚くべき事実に遭遇した。予想外の展開に言葉がでなかった。予想すらしていなかったので、完全にノーマークだったという感じだ。
狐娘の愛沢さんがエイトと抱き合っていたのだ。二人がそんな関係だとは思わなかったし、エイトの好みはどちらかというとサイコさんのようなギャル系だと思っていたので、まさかの地味女子の愛沢さんだとは思わなかったのだ。これは、個人の意見なので、地味な女性が好きだという人もいるだろう。
抱き合うというか顔が近い、もしかして、キスしてた? 私の心は動揺する。私は気づかれないように隠れながら観察する。
「まつげが頬についてるぞ。ちょっと目をつぶって。涙を拭いて、元気出せ。次の新人賞にまた向けて描くしかないって」
「ありがとうございます。落ち込んでいたので、プロの先生に励まされるとうれしいです」
新人賞に出して落ちて、慰めていただけ? まつげを取っていただけ? よくある勘違いのパターンに遭遇しちゃったのかな? しかし、それは半分は勘違いではないという事実に直面した。
「私、先生のこと、好きです」
愛沢さんのストレートな告白!! 私には無理な芸当だ。
「俺も好きだぞ、愛沢」
まさかの両想い? 嘘? 私はその言動に凍ってしまう。
「好きというのは、恋愛として好きだと言っているのです」
愛沢さんが丁寧に説明を始める。エイトは鈍感だから、そういう男だ。
「恋愛? 俺のことを好きだというのか? でも、娘みたいなのがいるし……」
私のこと、邪魔ってことかな。エイトの新しい恋を邪魔しているみたい。
「でも、先生はまだ未婚で未入籍です。ナナちゃんは娘ではありませんし、戸籍上は血縁がありません」
エイトはしばらく黙って、言葉を選ぶ。
「俺、妻になる人を亡くしてまだ日が浅いし。気持ちはうれしいけど、いますぐ恋愛とかまだ考えていなくて……」
「じゃあ、先生を振り向かせるために好きになってもらいます。好きになったら付き合ってください」
「でも、俺らは漫画の仕事もあるだろ、そういった私情を持ち込むのはどうかと思うぞ」
「仕事と恋愛は別物です。私を意識してもらうために、私、おしゃれもがんばるし、化粧だってがんばります」
「でも、漫画描くのに化粧とかおしゃれは必要ないっていうか……」
「でも、エイト先生と一緒にいる時間はかわいい私でいたいのです」
「かわいいこというな。俺は、そんなに惚れっぽいほうじゃないし、今まで異性としておまえのことを意識したことはないんだよな」
はっきりとエイトは思ったことを述べる。
「これから、異性として意識してください。私は先生が結婚決まった時すごく泣きました。でも、独身である今、諦めがつきません」
「俺のどこがそんなにいいんだ? 鬼山とか樹だっていい男だろ」
「俺についてこいっていうところか……。半妖に仕事を与えるチームを作ってくれたのはエイト先生のおかげです。私一人で仇討ちの仕事なんてできなかったと思います。半妖は成人したらかたき討ちの仕事をしないとこの世界にいることができないということは幼少から聞いていました。感謝と魅力が好きな気持ちにつながったのです。先生の漫画のセンスも顔立ちも話し方も全部好きです」
なんて正直な女性だろう。私ならば絶対にそんなに好きなことを本人を目の前にして言葉にならない。それは、フラれることが辛いということもあるし、気持ちを伝えることが恥ずかしいということもある。
「わかった。お前の気持ちは受け止める。でも、このことで気まずいとか仕事に支障が出るのは困る」
「わかってます。私のこと、二香《にか》ってよんでください」
「にか……」
「だって、サイコさんだけ下の名前ってずるいですぅ」
珍しくかわいらしい女性らしい一面をのぞかせる愛沢さん。
「わかったよ、下の名前で呼ぶから」
「うれしいです。ずっと伝えられなくて胸にしまっていましたが、本人に伝えるとすっきりします。明日からもよろしくおねがいします」
そういうと、愛沢さんは帰宅した。私は盗み聞きしたのが申し訳なくて、息を殺して壁に隠れていたのだが、エイトは気づいていたらしい。半妖のリーダーは気配に敏感だから、隠れるのは無駄なのだろう。
「かくれているの知ってるぞ」
「ごめん、聞くつもりなかったんだけど、ちょうど鉢合わせてしまって」
「ったく仕方ないな。俺は、美佐子さん一筋だし、今のところ彼女作る気はないぞ」
「お母さんと私に遠慮して新しい恋愛ができないのは、まだ未婚で若いのに申し訳ないなって思う。もし、本当に好きな人が現れたら遠慮なく恋愛でも結婚でもしなさいよ」
「俺は、そんなに惚れっぽくないんだって」
「でも、好きになるのは理屈じゃないから、生きていればそういうことがあるかもしれないでしょ」
「わかったよ。遠慮はしない。でも、今はそんな気持ちにはなれないけどな」
本当に誠実な人なんだなぁと背の高いエイトを見上げる。
「実はさ、俺ってちゃんと付き合ったことないんだ。美佐子さんとはデートもしないままだったし、高校の時は、親が死んでアシスタントのバイトしながら受験勉強して、大学生の時にデビューしたから、遊んでる暇もなかったしな」
「その歳で? 女性経験もないとか?」
さりげなく気になっていたことを聞いてみる。もしかして、お母さんと……そんなことを考えるとなんだか辛くなる気持ちがあったから。母親の女の部分を見たくないという気持ちもあったと思う。
「悪かったな、経験なくて」
ほっとする一言だった。お母さんとも経験がないということは、お母さんの女性の部分を見なくて済むような気がした。娘としては母親は母親であってほしいのが本音だ。
「ナナ、おまえも彼氏ができても、鉄のパンツをはいてデートしろよ」
「なによそれ」
「男に気やすく体を見せたり触らせることは厳禁ってことだ。学生で妊娠とかありえないからな」
血がつながっていないからなのかもしれない。本当の父親ならば、こういった話は娘にはできないだろう。
「大丈夫よ。そんな交際はするつもりはないから。エイトのほうこそ、若い娘にムラッとしないでね」
絶対に実の父には言わないセリフかもしれない。
「俺、お前に対してはそういった目で一切見ることはないから、安心しろ」
何が安心しろよ? ある意味失礼すぎるし。
「風呂で裸になっているのを見たとしても何も感じないから大丈夫」
「だいたい、風呂で裸の姿見せないし」
「俺の裸を見ても、どきっとするなよ。結構腹筋われてるからさ」
「ないない、おじさんに興味はないから」
「おじさんじゃなくて、おにいさんだろ!!」
そんなことを言った後、少し間を開けてエイトが提案した。
「冷凍していたもので簡単に夜食でも作るか」
「またまた家事男子《カジダン》の腕の見せ所ってことね」
「時間あるときにまとめて冷凍保存していると、結構そのまま調理できたりして便利なんだよな」
「さすが、エイトの知恵袋!!」
私はおどけながらエイトを持ち上げる。
「おう、任しとけぃ!! 今日は鶏肉とピーマンのチーズ焼きだ。おつまみの一品に最高だ」
「鶏肉は冷凍していたの?」
「空気が入らないように冷凍して、下味をつけるとそのままレンジでチンで一品できるからな。下味は、簡単にすきやきの素だぜぃ」
冷蔵庫からピーマンを取り出して細く刻む。そして、冷凍していた鶏肉を解凍させて、ピザ用チーズをかけてレンジで温める。簡単に一品ができた。
「たしかに、醤油おおさじ1とか、計るのは面倒だから、味付けに便利だよね、すきやきの素かぁ」
「ちなみに、めんつゆも結構味付けには便利だぞ」
「たしかに、酒1、みりん1って初心者にはハードル高いよね」
「今日は死神業もないし、俺は、久々にビールでも飲んでくつろぐとするか」
「じゃあ、私はジュースでかんぱい」
エイトが作る一品料理は簡単だけれどおいしいので、私の胃袋は完全にエイトにつかまれているといっても過言ではない。それくらい、エイトと一緒にいる時間が増えるにしたがって、エイトの良さが見えているという事実が私の中にはあったと思う。