♢生き地獄の制裁



 「さぁ、俺らの本領を発揮するぞ」

 閉店後の深夜、エイトの姿は銀色に光り、長く伸びた髪がなびく。その夜、月夜の暗闇の中にエイトと愛沢とサイコは消えた。

 愛沢は、メガネを外し、かわいらしい格好で、依頼された男にわざとぶつかる。
 元々きれいな顔をしているので、男はその顔を見ると少し見とれているようだった。

「あの、私と付き合ってもらえますか?」

「何だ? 逆ナンか? おとなしそうな顔してるけど、積極的なんだな、飲みに行こうか」

 男がにやけ顔で愛沢に手を差し伸べる。すると、愛沢の耳がきつねの形に変化する。そして、本来の力を発揮できる正装である着物姿に変化する。

 すると、男のまわりには巨大化した赤子や幼児が多数やってくる。男は驚く。自分よりもずっと大きい恐竜のような人間の子供がたくさん踏みつけようとしてくるのだから。

「ちょっと、助けてくれ!!!」

 サイコを見つけた男はすがるように叫ぶ。

「助けてほしいのは子供のほうじゃないのかい?」

 振り返ったサイコは、鬼のような顔に変化しており、恨みを買った男のみがこの世界で小人になっていたのだ。実際には半妖が人間の大きさよりもずっと大きくなっていたのかもしれない。その判断もできないくらい男は恐れ慌てていた。

「パパ―」「おとうさん」「すてないでよ」

 叫ぶ子供たちが男を囲み、海の中に呼び寄せる。男は恐怖と痛みで気を失ってしまったようだ。水の刑というのは、羊水の中の子供たちの思いなのかもしれない。

「制裁!!!!」

 エイトが叫ぶと、男の魂の半分がエイトの元にやってくる。男は海沿いで倒れていた。溺死自殺を図ったのではないかとニュースでは言われていたが、未遂に終わったという報道だった。そのニュースをなつみは見逃さなかった。男の名前はかつて愛した忘れもしない名前だったのだから。

 その後何者かによって、男の職場や近所などに男の奇行を示す画像がまらまかれた。人々は軽蔑の目で男を見る。

 そして、それ以上に苦痛な毎日が待っていた。意識が戻った男の耳には赤子や幼児の声が耳に残り、離れることは一時もなかったのだ。生き地獄とは本家の地獄よりももっと生きるには大変な状況なのだ。生きなければいけないのだから、どんなに大変で辛くても明日が来る、これは生き地獄特有の恐ろしさなのだ。