♢【鮭定食とウーロンハイ】
私がいつも通り、夕食を居酒屋の隅の方で食べていた時のことだ。
「俺がこうなったのは全てあの男のせいなんだ」
ウーロン杯を1杯飲んだ男は、カウンターの植物半妖の樹に話しかけた。
鮭定食の鮭を箸でつまみながら口に運ぶ。お通しのわかめときゅうりの酢のあえものも同時に口に運ぶ。お酒をたいして強くも無いような男が無理をして飲んでいるのだろうか。すぐ顔が真っ赤になる。
「中学の時に、いじめた男がいて、その後不登校になった俺は、その後どんどん道を踏み外しちまった。通信制高校に通い、なんとか卒業して就職はしたんだけど、どうも仕事が続かない。人間関係とか労働条件も悪くてさ。もし、中学の時に不登校にならなければそれなりの進学校へ行ける学力はあったのに。通信制からの就職は結構厳しくてさ、あいつさえいなければ……」
「そんなに憎いのですか? 全てがその人のせいでもないかもしれないし。もしかしたら、どこかであなたの理想のルートに乗ることも可能だったのかもしれませんよ」
樹は優しく諭す。
「たしかに、俺が意気地がないだけかもしれない。実力がない、仕事ができないのも自分のせいだ、でも、あのときにあいつに出会ってなければって思って怨みが日増しに増加するんだ」
「もしかして、ここが半妖の居酒屋で怨みをはらすっていう噂を聞いてきたの?」
ギャル魔女がすぱっと聞く。
「そうだ。だから、飲めない酒まで注文したんだ」
男は顔がかなり赤い。やけ酒なのだろうか? 無理をしているらしい。
「まぁ全ての根源がその男とも限らないけれど、怨みって一方的なものが多いので、よくある話ですよ」
樹さんは優しく理解する。聞き上手の癒し系男子だ。
「山田一郎っていう男だ」
山田一郎……どこかで聞いたような。いや、よくある名前か。
「おう、客か? いらっしゃい」
エイトが笑顔で接客する。昼間は漫画の仕事、夜は居酒屋で主にうらみをはらす仕事をしている。料理のレシピはエイトが考えたものだが、作っているのは従業員の二人が主だ。二人とも料理がとても上手で、家庭的な味を出す。考案者があの金髪男というのは、見た目だと、いまいち府に落ちないが、ああみえて家事料理は得意な男なので、そこは納得しよう。
「あなたの言う山田という男は先日全身おおやけどをして、意識不明の入院中です。社会復帰の道はかなり厳しいと思いますが、それでも怨みを晴らしたいのですか?」
樹さんが確認する。
「あいつが大やけどだと?」
「今、あなたから寿命を半分いただくと、山田からは以前寿命を半分もらっているので、即死となります」
「山田は即死でいいし、こんな人生だ。俺の寿命も半分くらいくれてやる」
「了解、あとは、任せておけ」
エイトが客の肩に手を乗せた。今、相手から銀色の光を奪ったようだ。半分寿命をもらったのだろうか?
即死ってことは殺人まがいのことをこの人たちは平気で行うということ? 半分だけ寿命を残すならば、殺人ではないけれど、既に前回の制裁で意識がない人を殺してもいいの? たとえどんなに悪人でも殺したら殺人組織ってことになるんだよ、チーム半妖。私は、怖くなり、自問自答した。たしかに、悪への制裁は必要だ。しかし、こんなに簡単に人の寿命を操作していいということはないはずだ。命を操作する。死神の血が入っていようとそんなことをするべきではないはずだ。なぜエイトはそんな闇稼業に手を染めているのだろう? 充分な収入があり、困っていないのに。
男は、結局定食は完食したのだが、お酒は半分くらい残して支払いを済ませて帰宅した。きっと私が寝静まったころに彼らは動くのだろうか? 客がいないときに、私は、彼らに確認した。
「殺人に加担するようなことは、やめてほしいの」
私は正論を述べた。間違っていないのは私だ。
「殺人じゃない。人間には法律で裁くことができない思いや怨念がある。だから、それは妖怪でも人間でもない、半妖の仕事と昔から決まっているんだ。そして、それを行わない半妖は人間界で生活もできない」
エイトの瞳はまっすぐで正義感に溢れているように思えた。しかし、人間界で生活できないというのはどういう意味だろう?
ギャル魔女サイコが説明する。
「ウチらはね、妖怪には認められない半端ものだから人間界にいるしかないのさ。妖怪の世界に居場所はないんだよ。そして、人間界に住むのなら、半妖にしかできない仕事をやれと言われたんだ。怨みはらしの仕事は、大昔に人間と半妖とで取り決められている。それは、大昔だからほとんどの人が知らないし、今知っているのは国の一部の人間だけかもしれないよ。でも、そのきまりを破ったら私たちは人間界で生活ができない。それは死を意味するんだ。生きるために仕事をするんだ」
半妖だから、妖怪の世界に住むことはできない。そして、人間界に住むには掟がある。それは仕方のないこと。彼らが生きるためには、怨みをはらす仕事をやらなければいけないことなのだろう。人間でもなく妖怪でもない彼らは少数であり、居場所がなく、とてもかわいそうな境遇なのかもしれない。
私がいつも通り、夕食を居酒屋の隅の方で食べていた時のことだ。
「俺がこうなったのは全てあの男のせいなんだ」
ウーロン杯を1杯飲んだ男は、カウンターの植物半妖の樹に話しかけた。
鮭定食の鮭を箸でつまみながら口に運ぶ。お通しのわかめときゅうりの酢のあえものも同時に口に運ぶ。お酒をたいして強くも無いような男が無理をして飲んでいるのだろうか。すぐ顔が真っ赤になる。
「中学の時に、いじめた男がいて、その後不登校になった俺は、その後どんどん道を踏み外しちまった。通信制高校に通い、なんとか卒業して就職はしたんだけど、どうも仕事が続かない。人間関係とか労働条件も悪くてさ。もし、中学の時に不登校にならなければそれなりの進学校へ行ける学力はあったのに。通信制からの就職は結構厳しくてさ、あいつさえいなければ……」
「そんなに憎いのですか? 全てがその人のせいでもないかもしれないし。もしかしたら、どこかであなたの理想のルートに乗ることも可能だったのかもしれませんよ」
樹は優しく諭す。
「たしかに、俺が意気地がないだけかもしれない。実力がない、仕事ができないのも自分のせいだ、でも、あのときにあいつに出会ってなければって思って怨みが日増しに増加するんだ」
「もしかして、ここが半妖の居酒屋で怨みをはらすっていう噂を聞いてきたの?」
ギャル魔女がすぱっと聞く。
「そうだ。だから、飲めない酒まで注文したんだ」
男は顔がかなり赤い。やけ酒なのだろうか? 無理をしているらしい。
「まぁ全ての根源がその男とも限らないけれど、怨みって一方的なものが多いので、よくある話ですよ」
樹さんは優しく理解する。聞き上手の癒し系男子だ。
「山田一郎っていう男だ」
山田一郎……どこかで聞いたような。いや、よくある名前か。
「おう、客か? いらっしゃい」
エイトが笑顔で接客する。昼間は漫画の仕事、夜は居酒屋で主にうらみをはらす仕事をしている。料理のレシピはエイトが考えたものだが、作っているのは従業員の二人が主だ。二人とも料理がとても上手で、家庭的な味を出す。考案者があの金髪男というのは、見た目だと、いまいち府に落ちないが、ああみえて家事料理は得意な男なので、そこは納得しよう。
「あなたの言う山田という男は先日全身おおやけどをして、意識不明の入院中です。社会復帰の道はかなり厳しいと思いますが、それでも怨みを晴らしたいのですか?」
樹さんが確認する。
「あいつが大やけどだと?」
「今、あなたから寿命を半分いただくと、山田からは以前寿命を半分もらっているので、即死となります」
「山田は即死でいいし、こんな人生だ。俺の寿命も半分くらいくれてやる」
「了解、あとは、任せておけ」
エイトが客の肩に手を乗せた。今、相手から銀色の光を奪ったようだ。半分寿命をもらったのだろうか?
即死ってことは殺人まがいのことをこの人たちは平気で行うということ? 半分だけ寿命を残すならば、殺人ではないけれど、既に前回の制裁で意識がない人を殺してもいいの? たとえどんなに悪人でも殺したら殺人組織ってことになるんだよ、チーム半妖。私は、怖くなり、自問自答した。たしかに、悪への制裁は必要だ。しかし、こんなに簡単に人の寿命を操作していいということはないはずだ。命を操作する。死神の血が入っていようとそんなことをするべきではないはずだ。なぜエイトはそんな闇稼業に手を染めているのだろう? 充分な収入があり、困っていないのに。
男は、結局定食は完食したのだが、お酒は半分くらい残して支払いを済ませて帰宅した。きっと私が寝静まったころに彼らは動くのだろうか? 客がいないときに、私は、彼らに確認した。
「殺人に加担するようなことは、やめてほしいの」
私は正論を述べた。間違っていないのは私だ。
「殺人じゃない。人間には法律で裁くことができない思いや怨念がある。だから、それは妖怪でも人間でもない、半妖の仕事と昔から決まっているんだ。そして、それを行わない半妖は人間界で生活もできない」
エイトの瞳はまっすぐで正義感に溢れているように思えた。しかし、人間界で生活できないというのはどういう意味だろう?
ギャル魔女サイコが説明する。
「ウチらはね、妖怪には認められない半端ものだから人間界にいるしかないのさ。妖怪の世界に居場所はないんだよ。そして、人間界に住むのなら、半妖にしかできない仕事をやれと言われたんだ。怨みはらしの仕事は、大昔に人間と半妖とで取り決められている。それは、大昔だからほとんどの人が知らないし、今知っているのは国の一部の人間だけかもしれないよ。でも、そのきまりを破ったら私たちは人間界で生活ができない。それは死を意味するんだ。生きるために仕事をするんだ」
半妖だから、妖怪の世界に住むことはできない。そして、人間界に住むには掟がある。それは仕方のないこと。彼らが生きるためには、怨みをはらす仕事をやらなければいけないことなのだろう。人間でもなく妖怪でもない彼らは少数であり、居場所がなく、とてもかわいそうな境遇なのかもしれない。