「まずは、ベルカイム領の聖騎士ロスペール、それとルベルーズ領にいる亡国の騎士エトムートです」
「あいつら、戦役には参加していなかったのか」
聖騎士ロスペールと亡国の騎士エトムートは、一年前の競技会で決勝を争っていた人物だ。今年は競技会どころではないが、今でもこの国最強の騎士である二人である事は間違いないだろう。
「はい。おそらく、ロレンス王はもしもの時に備えて若く将来有望な戦士をヴェイユ王国に留めておいたのでしょう」
カロンは「そして」と付け加えて、にやりとアデルを見た。
「僕はそこにアデルさんも含まれていると思っています」
「え、俺!?」
予想外の言葉に、アデルは思わず吃驚の声を上げる。
自分がそこに数えられるとは思ってもいなかったのだ。
「正直、僕はどうしてアデルさんを連れていかないんだろうって疑問に思ってました。アデルさんは冒険者だけでなく傭兵の経験もあって、実力もおそらくここヴェイユ王国ではトップクラスな上に大陸にも詳しい。そんな人を連れて行かないのは、不思議だなって。ただ、今のこの状況を見る限り……」
「もしもの時の戦力って事か」
「おそらく。ロレンス王はアデルさんとアーシャ王女の関係にも気付いていたのかもしれませんね?」
「え!?」
予想外のツッコミに再度吃驚の声を上げるアデルであった。
カロンはそんなアデルを悪戯げに見ている。
「ま、待てカロン。誤解があるぞ。別に俺達はそんな変な関係じゃ──」
「達、と来ましたか。まあいいんですけど、それよりアデルさん。そろそろ時間じゃないんですか?」
「え?」
カロンの言葉に、再度ぎくりとする。
誤魔化そうとするが、彼は悪戯に笑って「密会の、ね?」と付け足した。
「うぐっ……どうしてそれを」
そう言われて、思わず声を詰まらせるアデルであった。
今日は週に一度だけアーシャと会う事が許されている日なのである。許されるといっても、近衛騎士のシャイナが少しだけ話せる様に場を作ってくれているだけだ。逢瀬には程遠い。
「そろそろ気付いてる人もいるんじゃないですかね。冒険者上がりの王宮兵士が王女様とデキてるって」
「ばッ──デキてねえ!」
アデルは思わず必死に否定する。実は彼としても何と言って良いのか分からない程、二人は微妙な関係だったのである。
アデルとアーシャは一年前に誓いの口付けをして以降、密会してどちらともなく口付けをしてはいる。しかし、互いに気持ちを伝え合う事もしていなければ、それ以上の関係にもなっていない。何より、王女と兵士でそれ以上の事が許されるはずがないのだ。
だが、王女のアデルを見る瞳が完全に恋をしている乙女のそれである事や、アデルを見掛けると嬉しそうに話し掛けにいく様などを城の者は見ており、うっすらと関係を察している者も何人かいた。
何より、恋をしていなければ、口付け等求めてこないだろう。
「ほんとですかねぇ……全く、どっちが国賊なんだか」
カロンは溜め息を吐いて、談話室へと戻って行った。
「国賊って……そりゃないだろう」
こっちだって悶々としているのに、とアデルは心の中で文句を言っていると、丁度そのタイミングで「アデル」と彼を呼ぶ女性が現れた。橙色のショートカットの女性騎士──即ち、アーシャの護衛騎士・シャイナである。
週に一度の逢瀬の時間だ。
カロンはやれやれ、と肩を竦めて、アデルにからかいの視線を送るのだった。
「あいつら、戦役には参加していなかったのか」
聖騎士ロスペールと亡国の騎士エトムートは、一年前の競技会で決勝を争っていた人物だ。今年は競技会どころではないが、今でもこの国最強の騎士である二人である事は間違いないだろう。
「はい。おそらく、ロレンス王はもしもの時に備えて若く将来有望な戦士をヴェイユ王国に留めておいたのでしょう」
カロンは「そして」と付け加えて、にやりとアデルを見た。
「僕はそこにアデルさんも含まれていると思っています」
「え、俺!?」
予想外の言葉に、アデルは思わず吃驚の声を上げる。
自分がそこに数えられるとは思ってもいなかったのだ。
「正直、僕はどうしてアデルさんを連れていかないんだろうって疑問に思ってました。アデルさんは冒険者だけでなく傭兵の経験もあって、実力もおそらくここヴェイユ王国ではトップクラスな上に大陸にも詳しい。そんな人を連れて行かないのは、不思議だなって。ただ、今のこの状況を見る限り……」
「もしもの時の戦力って事か」
「おそらく。ロレンス王はアデルさんとアーシャ王女の関係にも気付いていたのかもしれませんね?」
「え!?」
予想外のツッコミに再度吃驚の声を上げるアデルであった。
カロンはそんなアデルを悪戯げに見ている。
「ま、待てカロン。誤解があるぞ。別に俺達はそんな変な関係じゃ──」
「達、と来ましたか。まあいいんですけど、それよりアデルさん。そろそろ時間じゃないんですか?」
「え?」
カロンの言葉に、再度ぎくりとする。
誤魔化そうとするが、彼は悪戯に笑って「密会の、ね?」と付け足した。
「うぐっ……どうしてそれを」
そう言われて、思わず声を詰まらせるアデルであった。
今日は週に一度だけアーシャと会う事が許されている日なのである。許されるといっても、近衛騎士のシャイナが少しだけ話せる様に場を作ってくれているだけだ。逢瀬には程遠い。
「そろそろ気付いてる人もいるんじゃないですかね。冒険者上がりの王宮兵士が王女様とデキてるって」
「ばッ──デキてねえ!」
アデルは思わず必死に否定する。実は彼としても何と言って良いのか分からない程、二人は微妙な関係だったのである。
アデルとアーシャは一年前に誓いの口付けをして以降、密会してどちらともなく口付けをしてはいる。しかし、互いに気持ちを伝え合う事もしていなければ、それ以上の関係にもなっていない。何より、王女と兵士でそれ以上の事が許されるはずがないのだ。
だが、王女のアデルを見る瞳が完全に恋をしている乙女のそれである事や、アデルを見掛けると嬉しそうに話し掛けにいく様などを城の者は見ており、うっすらと関係を察している者も何人かいた。
何より、恋をしていなければ、口付け等求めてこないだろう。
「ほんとですかねぇ……全く、どっちが国賊なんだか」
カロンは溜め息を吐いて、談話室へと戻って行った。
「国賊って……そりゃないだろう」
こっちだって悶々としているのに、とアデルは心の中で文句を言っていると、丁度そのタイミングで「アデル」と彼を呼ぶ女性が現れた。橙色のショートカットの女性騎士──即ち、アーシャの護衛騎士・シャイナである。
週に一度の逢瀬の時間だ。
カロンはやれやれ、と肩を竦めて、アデルにからかいの視線を送るのだった。