「お、おい……嘘だろ? オルテガ……やめてくれよ、俺達仲間じゃねえかよ」
「貴様、そこまで堕ちたか!」

 ゾール教国の陣営のど真ん中で、盗賊ギュントと魔導師イジウドは縛られて座らされていた。
 あの後オルテガはギュントとイジウドを殴って気絶させ、ゾール教国側への陣営に向けて、白旗を上げたのだ。また、その際に自らとフィーナが隠れたゾール教徒の信者であったが、仲間の前ではそれを表に出す事ができず、無理矢理戦わされていた事にした。
 しかし、今は違う。その証拠として、()()()ギュントとイジウドが首謀者だとして、司祭の前に突き出したのだ。
 そして今──縛られたギュントとイジウドの前に、戦斧を持って立っているのだった。

「どうした、同志オルテガよ。汝が敬虔なる信者と言うのであれば、この者どもの首を撥ねよ。我はまだ汝を信用したわけではないぞ」

 ゾール教国の司祭が尊大な物言いで言う。
 彼らとてオルテガの話を全てが全てを信じたわけではなかった。そうでないというのであれば、その()()()達の首を撥ねよ──そう、彼はオルテガに命じたのである。
 フィーナもそう命じられたが、彼女は回復術師だ。殺す事はできないと説得させ、代わりに先程まで戦っていた信者達の傷を治療する事で、仲間殺しは免れた。
 その代わりに、オルテガが二人を殺せと命じられたのである。

「オルテガ、お願い……やめて」

 フィーナが他に聞こえない様に、小さな声で言う。
 しかし、オルテガはフィーナを無視したまま引き攣った笑みを浮かべて、斧を振り上げた。

「へっへっへっ、ようやく異教徒どもをぶっ殺せる時が来て、せえせえするぜ」

 信じられない、という様な顔をして、イジウドとギュントがオルテガを見上げていた。その瞳には絶望色で染まっている。

「こんの糞裏切り者のイカレポ──」

 ギュントが叫んだが、その言葉を最後まで言う事はなかった。オルテガの斧が振り下ろされたのだ。
 そしてそのまま、イジウドの首も撥ねた。
 オルテガの顔に、かつての仲間の血が飛び散った。フィーナは体を後ろに向けて、顔を覆っている。
 オルテガは自らとフィーナを守る為に、仲間を裏切って、殺したのである。

「見事だ、同志オルテガ! 見事な異教徒への鉄裁てあった! 汝を我らの仲間として迎えよう!」

 ゾール教国の司祭が嬉しそうに言った。

「おいおい、司祭さんよ。甘く見てもらっちゃ困るな?」
「む?」
「これで終わりじゃねえ。()()()どもが使ってる逃げ道と領主どもの隠れ家も教えるっつってんだよ。そいつらを叩いた方が増援までの時間も稼げる。そうだろ?」

 オルテガが言うと、ゾール教国の司祭は嬉しそうな笑みを浮かべて、手を叩いた。

「見事だ、同志オルテガ! 汝と()()()、フィーナにはそれに相応しい地位を与えようぞ!」
「へへっ、ありがてぇ。頼むぜ、旦那」

 オルテガはそう言って、フィーナの手を握った。
 妻という事にした方が、彼女がゾール教国に何かをされるという危険がなくなると思い、オルテガは咄嗟に嘘をついたのだ。
 こうしてオルテガとフィーナはゾール教国軍に寝返り、母国ライトリー王国の敵となった。
 一度仲間を裏切ってしまえば、その後はもう裏切るしかない──オルテガはこの時、その事実を知ってしまったのだった。