アデルが()()()以降、オルテガ達のパーティーは依頼の成功率は下がっていた。Sランクパーティー向けの依頼の難易度が高かったのもあるが、その原因はアデルがいない事だった。彼がいればできた事が、彼がいないせいでできない──そういった事から、採れる打ち手が少なくなり、結果として依頼失敗に終わった事も多かった。
 つい先日も、ギルドマスターから次の依頼で失敗すればAランクへの降格も考えると言われたところだった。

(糞が! 俺一人の力だと、Aランク留まりだったって事かよ!)

 彼らがSランクパーティーになれた理由──それは、アデルがいたからだったのだ。
 彼はその事に、今ようやく気付いたのだ。結局アデルがいなければ、Sランクとして通用しない。それがオルテガが思い知った事だった。
 今回の一件も、アデルがいれば打ち手はあった。アデルとオルテガの二人で敵将のところまで突破し、敵将の首を落とすといった博打も打てたはずだ。
 しかし、オルテガ一人ではむざむざと全滅しに行くだけである。

「オルテガ……?」

 金髪碧眼の回復術師がオルテガをじっと見ていた。
 アデルの死から体をオルテガに明け渡しているものの、フィーナの心の中ではまだアデルへの気持ちが残っている。それは体を重ねているオルテガが一番わかっていた。
 もはや回数だけで言うなら、アデルよりも圧倒的に多く交わっているだろう。しかしそれでも、彼女の心の中からアデルを消す事は叶わない。薬を飲ませて性に狂わせても、彼女の中にはアデルがいた。
 オルテガはここでもアデルに負けていたのだ。

(糞ッ垂れ、糞ッ垂れ、糞ッ垂れ! ここで死んだらそれこそ負けを認めたもんだ。絶対に負けねえ。こいつも俺の女にしてやる……!)

 フィーナを見て、オルテガは改めてそう強く思う。
 アデルに勝つには、自分が生き残るだけだ。それまで()()()()死んでやるわけにはいかなかった。
 オルテガはフィーナの手を握り、そして彼女に()()()()を渡した。
 それは、オルテガも持っている。先程敵の狂信兵を殺した時に、こっそりと奪い取ったものだ。

「オルテガ、これって……!」
「宗教を偽るぞ、フィーナ」
「で、でも……それは大地母神フーラ様を裏切る事にッ」
「もうそれしか俺達が生き残る道はねえ!」

 オルテガがフィーナに握らせたもの。
 それは、邪神が彫られたゾール教徒の証たるネックレスだった。しかも、宝石も埋め込まれている。
 幸い、宝石が埋め込まれた邪神のネックレスは、二つ手に入った。この証を持っているのは、かなり敬虔な信者の証だ。この証を持って敵の前に出れば、助けてもらえる可能性があった。

「待って、それに私達は今まで敵を倒してる。今更出ていっても」
「……大丈夫だ、それも考えてある。安心しろ、お前だけは守ってやる」

 フィーナは不安そうにしているが、オルテガは頷く事しかできなかった。

(へっ……人生ってのは糞みたいなもんだ。まだ糞の方がマシなのかもしれねえ)

 オルテガは内心で大地母神フーラに唾を吐きつけた。

(邪魔者がいなくなった途端、転げ落ちるみてぇに自分が腐っていく道しか残ってねえ。こいつは一体何の冗談だ、糞女神)

 自嘲的な笑みを浮かべて、ギュントの報告を待つ。
 この時彼は、ある決断をしていたのだった。