(ああ、そういう事か……)

 アデルは長らく自分が一人で戦っていた理由に気付いた。
 彼は、両親の死で大切な人を失う悲しみを知った。仲間から裏切られる事は怖かったが、それよりも誰かを失う事が怖かったのだ。
 結果的に仲間から裏切られ、全てを失う事にはなってしまったが……アデルも、アーシャと同じ気持ちだったのだ。
 おそらく、アーシャは死そのものに慣れていない。アデルがキッツダム洞窟で死にそうになっていたのを見て、その死が目の前にある事を恐れて、彼女はただ懸命にアデルを治療してくれたのだろう。

「アーシャ王女……今だけは無礼を許してくれ」
「あっ……」

 アデルは涙する王女の肩をそっと手を置くと、そのまま自分の方へと抱き寄せた。彼女は小さく声を漏らしたが、それに抗いはしなかった。

「戦で誰かを亡くすというのは……これだけ辛い事だったんですね」
「ああ……」

 そっと彼女の背中を擦ってやると、アーシャは歔欷しながらも、そっとアデルの背に自らの腕を回した。

「私、怖いです。クルス様が亡くなるかもしれないという事も、この国もいつか攻め込まれて、たくさんの国民達が亡くなるかもしれないという事も……これまで考えた事もなかった事が急に現実味を帯びてきて、それを考えると、怖くて眠れなくなるんです」
「大丈夫……大丈夫さ。俺達兵士は、そういう時の為にいるんだ。国の民も、アーシャ王女も俺達が守るさ」
「そういう事じゃありません!」

 アーシャは声を荒げて、アデルを見上げた。

「私は……アデルを失う事も、怖いんです!」

 それは慟哭ともいえる心の叫びだった。
 予想外の言葉に、アデルは口をぽかんと開けて彼女を見つめる。
 少女はアデルの胸の中に顔を埋め、続けた。

「兵士だからとか、そういうのじゃなくて……私はアデルにいなくなって欲しくないんです。もう、あんな状態のアデルを見たくありません」

 あんな状態とは、おそらく洞窟での事を言っているのだろう。
 アデルは確かに死の淵にいた。アーシャによる治癒魔法がなければ、間違いなく命を落としていたのは明白だった。
 アデルは少し迷いながらも、彼女の細い肩をぎゅっと抱き締める。アーシャもそれに応える様に、アデルにしがみ付く様にして、腕にぎゅっと力を込めた。それはまるで、絶対に離さないと言わんばかりであった。

「アーシャ王女。初対面があんなザマだったから、不安かもしれないけどさ……俺、絶対に死なないから。もうあんな無様な姿は見せない。約束する」
「そんなの、わからないじゃないですか……」
「わかるさ」
「どうしてですか?」

 アデルは彼女の肩を優しく掴んで、そっと体を離して彼女を真正面から見つめる。

「俺がどうしてここにいるのか、もう忘れたのか?」

 アデルがそう訊くと、銀髪の王女は顔を上げた。