競技会から、一か月の月日が過ぎていた。あの日以降、アーシャとアデルは会話を交わす事はなかった。
 アーシャの近衛騎士にしてお目付け役のシャイナに競技会前の事について報告が行き、アーシャはかなり絞られた様だ。暫くは外出が禁止され、半ば部屋に軟禁され、座学等に打ち込んでいるのだと言う。
 アデルとて、何のお咎めもなかったわけではない。王宮兵団としての自覚がないだの、一人で守り切れる等と思い上がるなと散々兵団長からは叱られた。それからこの一か月間は王都郊外の見回りと警備をさせられ、王宮から遠ざけられていたのだ。ほぼ罰に等しい扱いだった。
 無論、アデルは思い上がっているわけでもなく、彼女の安全を第一に考えていた。ただ王女の意思を尊重しただけなのであるが、それでも彼はその罰をしっかりと受け入れた。
 ()()()()としては、彼の行動は間違いに他ならない。あそこはアーシャを無理矢理引き留めてでも、護衛を撒くべきではなかったのだ。アデルにはその選択肢もあったはずだった。
 しかし、アデルはアーシャに任せる事を選んだ。守り切る自信もあったが、それよりも……彼女と二人で過ごす時間が欲しかったからだ。その後に身分の違いで苦しむ事になったのは、そんな欲望を抱いてしまった事への罰だろう、とアデルは考えた。
 王宮に戻ってくると、アデルは文官へと報告を済ませて、一週間程度の休養を言い渡された。この一か月間は休みなくヴェイユ島を走り回っていたので、その分の休暇だそうだ。

(休暇なんて要らないんだけどな)

 アデルは内心ではそう思いつつも、「ありがとうございます」と礼を言って、執務室を退出した。
 仕事をしている間、アデルは色々な事を忘れる事ができた。
 フィーナの事や、オルテガの事、そしてアーシャ王女との身分の違い……そういった、自分を苦しめる要素は労働によって忘れ去っていたのだ。
 一週間も休みをもらっては、その間どう過ごせば良いのかわからない。誰か知り合いの王宮兵団でも探して町で飲みにでも出かけようかと思って王宮内をふらふらしていた時である。
 ヴェイユ王宮内がやけに騒がしい事に気付いた。騒がしいというより、浮足立っている。
 アデルが王都近郊の警備の任務に出る前とは、まるで様子が違っていた。

(……何かあったのか?)

 寮まで戻ると、まずは顔見知りを探した。新参のアデルに詳しい内情を話してくれる者はそう多くない。顔見知りを探して教えてもらうのが早いだろうと思ったのだ。

「あ、カロン!」

 寮の談話室に居たのは、カロンだった。他の兵士と何やら真剣な面持ちで話をしている。
 カロンはアデルに気付くと、その会話を終わらせてこちらに駆け寄ってきた。

「お疲れ様です、アデル。今回の任務、長かったですね」
「ああ。まさか一か月もの間、島を走り回る事になるとは思ってなかったよ。()()()()()()()()()()()一苦労だ」

 アデルが軽口を言って肩を竦めると、カロンは「相変わらずですね」と苦笑いを見せた。